104、電車 (お題:改札)

「そろそろ、かな」

 おばあちゃんが私の頭をくしゃり撫でる。

 遠く踏切の音が響いたかと思うと、丘陵の陰から見慣れた一両編成の車体が現れた。

 村に唯一の駅、改札のすぐ向こうに停車する。車内は無人で、降りてくる者も当然いない。いつもの通りだった。

 しわくちゃの手が、もう一度私の頭を撫でた。

「元気でな」

 にっこり笑うと、おばあちゃんは改札をくぐった。

 発車のベルが鳴る。電車の後部を見送りながら、私は言った。

「私も乗ってみたいな」

 隣でお母さんが笑う。

「お前にはまだ早いよ」

「じゃあ、大きくなったら乗れる?」

「いつかね」 

 電車の消えた先を見つめ、ふと思った。いつも同じ方向にしか走って行かないけど、帰りはどうするんだろう?

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