103、2つのタンブラー (お題:タンブラー)

 晩餐の後、水の入ったタンブラーが二つ用意された。

 一方に白い粉を混ぜる。マジシャンよろしくタンブラーの位置を数度交換すると、ボスは冷たく言った。

「さあ、どっちを選ぶ?」

 選んだ杯を飲み干して死ななければ助けてやる――それが裏切者である私に提示された、命がけの余興だった。

 だが、あまりにも簡単すぎる。もしかしてすり替えか? それとも両方に毒が?

 堂々巡りする思考。頭が熱を帯びてゆく。

 カタン。

 気がつくと、私は椅子からずり落ちていた。身体がまるで動かない。

「お前は判断に時間がかかりすぎる」

 タンブラーを片手に、ボスが嗤った。

「毒はさっきの料理に混ぜておいた。遅効性のね。この粉は解毒薬だよ」

 そこで視界は暗転した。

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