98、姉のことば (お題:髪ゴム)

 姉が髪をゴムで留める仕草が好きだった。

 つややかな黒髪をひっつめ、細い指でまとめ上げる。それがとても美しくて。

 私も同じようにしたかったが、言い出せなかった。周りの目が気になったのだ。それを聞いて、姉は珍しく怒った。

 ――ナオはナオのしたいようにしていいんだよ。

 泣きそうになった。

 けっきょく、髪ゴムをつけることはなかったが、その言葉は私の支えになった。

 そして、今日。

 姉の墓に手を合わせる。去年の今日、彼女は亡くなった。三十一の若さだった。

 顔を上げ、墓の前でくるりと回る。姉に見てもらうために。舞うようにスカートが、ゴムでくくった黒髪が、揺れた。

 ――ありがとう、姉さん。

 あなたの弟に生まれて、本当によかった。

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