91、あたり (お題:箸)

「当たった」

 友人の言葉に、私は丼から顔を上げた。近所のそば屋で二人、遅い昼食を摂っているところだった。彼が割り箸の断面をこちらに向ける。

『あたり』

 赤い、稚拙な字でそう書かれていた。思わず首を傾げる。

「何が当たりなんだ?」

「お店のサービスなのかも」

 しかし、店員に聞いてもそんな仕掛けなどしていないという。釈然としなかったが、割り箸製造会社の遊び心だろうという結論に落ち着いた。

 数日後、友人はこの世を去った。交通事故だった。死体はひどい惨状で、頭蓋骨から脊椎まで骨が真っ二つに割れていたらしい。

 もちろん、因果関係は分からない。ただの偶然と考える方が自然だろう。

 けれどもそれ以来、私は割り箸を使えずにいる。

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