91、あたり (お題:箸)
「当たった」
友人の言葉に、私は丼から顔を上げた。近所のそば屋で二人、遅い昼食を摂っているところだった。彼が割り箸の断面をこちらに向ける。
『あたり』
赤い、稚拙な字でそう書かれていた。思わず首を傾げる。
「何が当たりなんだ?」
「お店のサービスなのかも」
しかし、店員に聞いてもそんな仕掛けなどしていないという。釈然としなかったが、割り箸製造会社の遊び心だろうという結論に落ち着いた。
数日後、友人はこの世を去った。交通事故だった。死体はひどい惨状で、頭蓋骨から脊椎まで骨が真っ二つに割れていたらしい。
もちろん、因果関係は分からない。ただの偶然と考える方が自然だろう。
けれどもそれ以来、私は割り箸を使えずにいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます