90、ガラス点検 (三題噺:ガラス、点検、実家)
幼い頃、私は父方の実家で暮らしていた。
みなが顔馴染みの、山奥の小さな村だった。
ことに記憶に残っているのが、窓ガラスだ。毎月十日。いつも夜の九時頃から、何かが窓ガラスに張り付くベタベタという音が聞こえてきたのだ。
そのたび、怖くて震える私に祖母が添い寝してくれた。
「何、あれ?」
「……点検してくれているんだよ」
優しい声とは裏腹に、祖母の顔は強張っていた。けれど彼女の体温に包まれて、やがて私は眠りについていた。
あれは一体何だったのか。父の転職を機に私は村を離れ、以降は同じ現象に遭遇することはなかった。
なのに――
一人暮らしのアパート。その窓ガラスについた無数の手形を見つめ、私はただただ立ち尽くしていた。
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