89、投げキッス (お題:投げキッス)

 道端で目が合った瞬間、ゆうこさんは僕に投げキッスをした。

 密かに想いを寄せていたクラスメイトだった。呆然とする僕を置いて、顔を赤くした彼女はそそくさと駆けていった。

 喜色満面に友人へ報告したが、彼は複雑な表情を見せた。

「あいつは爪を噛む癖があるんだ。多分、その時も噛んでたんだろう」

 そして、慌てて口から離したしぐさが投げキッスに見えただけ――そう断言する彼に、さすがに僕もカチンときた。

「だけど、顔を赤くして逃げてったんだぞ」

「爪を噛んでるのを見られたと思ったんだろ」

「あくまで仮説だろ。俺に気があるって可能性も……」

 食い下がる僕に、友人が申し訳なさそうに言った。

「ごめん、付き合ってるんだ。ゆうこと俺」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る