85、エメラルド (お題:エメラルド)

 エメラルドは、ある日彗星のように現れた。

 出自は定かではない。けれど、その美しさの前では些細なことだった。

 当然、争奪戦が勃発し、最終的にある子爵が射止めた。

 彼は独占欲の強い男で、エメラルドをお城の奥へと閉じ込めた。数年後、領民の叛乱により火の手が上がる。エメラルドは下男をしていた若者と密かに逃れた。

 だが、欲に目がくらんだ男はエメラルドを闇商人に引き渡してしまう。裏の競り市。エメラルドに注がれる欲望に満ちた視線。数奇な運命を辿りながら、けれどその美しさは一向に衰えてはいなかったのだ。

 その後、長く足取りは途絶えていた。けれど幸運にも、現在では大英博物館の特別展示室でその美しさを堪能することができる。

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