86、つながる (お題:絆)

 ふいに、「彼女」が危ない目に遭っているという確信が私の胸に湧いた。 

 どこの誰だかは分からない。けれどまさに今、「彼女」が危機の渦中にあることが分かった。双子のテレパシーのようなもの、と言えば分かるだろうか。

 以後、たびたびその感覚が襲ってきた。ただ無事を祈るばかりの私は、いつしかまだ見ぬ彼女に心奪われ、一緒になる将来を夢見るようになった。

 だが、思いは実らなかった。

 ある日を境に感覚の頻度は急増し、やがて一日中続いた後に突如途絶えた。恐らく――病死したのだろう。初めて感覚を意識してから、九十年。私も百歳となった。彼女が逝ったとして不思議ではない。

 緑茶をすする。一人きりの居間に、音がやけに大きく響いた。

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