84、灰色の約束 (お題:約束)

 ずぼらな私と違い、彼は約束を違えたことがない。

 今日も喫茶店での待ち合わせに遅れた私に対し、彼はすでにコーヒーを飲んでいた。

 秘訣を尋ねると、彼は首を振った。

「どうせ信じないし」

「信じるって。約束する」

「……監視されてるんだ」

 誰かと約束をするたびに、全身灰色ずくめの男が現れるのだという。

「最初は偶然だと思ったさ」

 だが、男は約束を果たすと消え、別の約束をするとまた出現した。実害はなく、じっと遠くから彼を見つめているだけらしいのだが。

「約束を破ったら何をされるか分からないだろ?」

 ――思い過ごしじゃ? そう言いかけて、私は言葉を呑み込んだ。

 友人の肩越し。奥のテーブルから灰色の男が無表情に私を見つめていた。

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