80、未食の美食 (お題:味覚)

「退屈な味だ」

 彼の言葉に、私は歯噛みした。

 日本を代表する美食家。その彼が、私の渾身のフルコースを切って捨てているのだ。

「ここは百均ショップか?」

 粗製乱造、と言っているのだ。その言葉に、理性が吹き飛んだ。

 ――ならば、食べたことのない味を体験させてやろう。

 メインディッシュに出したのは、特製のソースをかけたステーキ。

 一口食べ、彼はフォークを置いた。

「ふむ、正統なフォンドボウに醤油を数滴。あとは――」

 彼は、私の混入した毒物の名前を言い当てた。

「どうして……」

「食べたことがあるからさ」

 ナプキンで口を拭くと、

「なぜか、これまで五度ほど料理に入っていたことがあるのでね」

 そう言って、彼はテーブルに崩れ落ちた。

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