79、営業ノルマ (お題:目標)

 外回りから彼が帰ってきた。足取りから機嫌の良さが窺える。

「どうだった?」

 もう聞くまでもないが、経理事務員としての定型句だ。

「十人とれた」

「まじ?」

「まじ」

 彼が頷く。

 半日で十人。おそらく彼の自己ベストだろう。

 外回りの営業は、個人の努力だけではどうしようもないことが多い。社会情勢や景気に左右されるし、もちろん巡り合う相手にもよる。

「すごいじゃない」

 嘆息する私に、彼は肩をすくめた。

「何せ、ここのところずっと不景気だしな」

「まあ、たしかにね」

「とりあえず、月のノルマのために今のうちに稼いどくとするよ。いつ景気が良くなるか分からんし」

 そう言って、彼――死神は十人分の魂でいっぱいになった袋を私に手渡した。

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