77、④ (第86回Twitter300字ssお題:買う)

 店を出る青年の背を見つめる。

 最近この本屋に通うようになった客なのだが、なぜかコミックの四巻ばかりを買っていくのだ。その上、今どき下駄を履いている。

 友人の刑事に相談すると、「ああ」と頷いた。

「そいつなら昨日死んだよ」

 息を呑む私に、彼が説明する。野原で隕石が頭に直撃したのだという。

「そんな事故、ある?」

「事故じゃない。自殺」

 自宅には遺書があったという。そして、大量のコミックス四巻にカラスの死骸、北枕のベッド――

「自分で死ぬのが怖いから、事故で死ねるように不吉なジンクスを集めていたのさ。大掛かりな自殺ってわけだ」

 ふと、彼の履いていた下駄が脳裏をよぎった。きっと、もう鼻緒は切れてしまっているのだろう。

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