76、ラバートーク (5/6:ゴムの日)

 なぜこんな状況になったのかは分からない。

 気づいたら、私と彼女は向かい合わせに柱に縛り付けられていた。ぴんと伸びたゴムの両端をそれぞれくわえさせられて。

 二人の距離は五メートルほど。どちらかが口を緩めれば、たちまちもう一方の顔に熾烈な一撃が飛ぶだろう。

 当然しゃべれないが、二人付き合いは長い。私は、彼女に口を緩めるように目で言った。自分が犠牲になると。

 彼女は首を振った。その決意に満ちた目を見て、私は気づいた。

 二人とも助かる方法が一つだけある。同時に口を離せばいいのだ。

 成功の確率は低い。だが、彼女は二人でリスクを分け合おうと言ってくれているのだ。

「ありがとう」

 思わず口走った私の耳に、乾いた音が響いた。 

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