67、哲学の枕 (4/27:哲学の日)

「最高の睡眠導入剤を見つけたんだ」

 そう言って、友人は分厚い本を取り出した。

 方法は簡単。難解な哲学書を意味も分からず読むだけ。だが、効果は抜群だという。

「なるほど」

 私は頷いた。

「分からんでもない」

「ただ、副作用があってね」

「些細なことにこだわるようになるとか?」

 おどける私に、彼は首を振った。

「一年も続けていると、哲学者の会話の内容がすらすらと理解できるようになるんだ」

「すごいじゃないか!」

 感嘆の声を上げる私に、けれど相手は暗い顔のままだ。

「そう、理解できる。いや、でき過ぎるのが問題なんだ」

 ため息がひとつ。

「彼らが気の毒になるのさ。些細なことにこだわって真理からはるか遠い位置にいる、彼らのことが」

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