65、風の (4/22:アースデイ)
風が消えて百年が経とうとしていた。
正確には、気候制御システムが完成して、だ。快適に調節された世界。今や地球はエアコンの効いた巨大なリビングだった。
「時々、風を感じることがあるの」
だから、彼女のその言葉に僕は首を傾げた。
「生活風じゃない?」
活動している限り、その都度空気は流れる。それを僕らは生活風と呼ぶ。
けれど、彼女は首を振った。ぼうっと考えごとをしている時に感じるのだという。
「考えごとって?」
「秘密」
それからしばらくして、彼女は地球を発った。音も風もなく、あっという間に空へと消える恒星間宇宙船。
小高い丘の上で、僕はそれを見送った。ふと、何かが頬を撫でるのを感じた。たぶん――気のせいなのだけど。
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