63、かみつく (4/18:良い歯の日)

 鉛筆を噛んでいるのを友人に注意された。

「治したいんだけど、癖でね」

「こんな話があるんだ」

 かつて紀州のある地域では家を建てる際、一番大きな梁に家族全員の噛み痕を残したという。

「『噛みつく』が『神憑く』に通じるってことだな」

 ある時、他所から移住してきた一家がそのしきたりを破った。すると、その家だけがあっという間に繁栄した。

「で、嫉妬を買って村八分にされた」

「『神憑く』なんてでたらめってことだろ」

 首を振る友人。

「『神憑く』をした家には神以外の『何か』が憑いてしまったから繁栄できなかった、とも考えられるだろ?」

 薄笑いが浮かぶ。

「一体、何が憑いていたんだろうな」

 それ以来、私の鉛筆から噛み痕はなくなった。

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