62、喜劇の構造 (4/16:チャップリンデー)

「喜劇というのは頭の上の眼鏡さ」

 ソファにもたれ、喜劇王は言った。

「必至に探しているのに見つからない。当人にとって、それは悲劇だ。だが、周りから見たら喜劇になる」

「なるほど」

 私はメモ帳にペンを走らせた。記者として彼の自宅で取材中なのだ。

 と、ドアから美しい女性が入って来た。

「ああ、家内だよ」

 喜劇王の紹介に、彼女は無言で紙をテーブルに叩きつけた。離婚届だった。

「何でだ!?」

 叫びとともに立ち上がる喜劇王。彼の妻がため息をつく。

「分からないの?」

 そう吐き捨て、彼女は部屋から出て行った。喜劇王がソファに崩れ落ちる。

「なぜ……」

 気まずい沈黙が流れる。耐え切れず、私は言葉をかけた。

「その……さすが喜劇王です」

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