61、人間椅子 (4/14:良い椅子の日)

「人間椅子って知ってるか?」

 友人の言葉に、私は頷いた。

「江戸川乱歩だろ?」

 他人の家に忍び込み、椅子の中に入って座った女性の感触を楽しむ――なかなかに煽情的な話だ。

「この間、やってみたんだ」

 友人は同じゼミの女の子の名前を出した。それは、私の片思いの相手だった。

 さすがに看過できず、私はそれとなく彼女に探りを入れた。もちろん事情を伏せて。

「うちにでかい椅子なんてないよ」

 あっけらかんとした答えが返ってきた。座るものといえば、アルミフレームの椅子が数脚あるだけだという。

 私は友人に詰め寄った。

「冗談にしては悪趣味すぎるぞ」

「いや、本当なんだって」

 悪びれもせずそう言うと、彼は四つん這いになって私を見上げた。

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