57、打鍵クライマックス (4/6:事務の日)

 いつもの事務課。

 いつも通りただただキーを叩いていた私はふと気づいた。

 部屋にいるスタッフ十人の打鍵がハーモニーを奏でているのだ。

 時に軽やかに、時にうねるように。単音ながら緩急と強弱によって紡がれるそれは、まさに音楽だった。

 やがて全員の打鍵がユニゾンを成し、クライマックスへ。

 一瞬のブレイク、次いで最後の一音ですべては完成するはずだった。空気がぴんと張り詰める。

 鳴るべき打鍵は――鳴らなかった。

 おそらく、誰も最後の一音の責任を引き受けたくなかったのだろう。

 私がそうであるように。

 間の抜けた拍手のように、打鍵音がパラパラと戻ってきた。

 室内を再び覆ったよそよそしさは、相変わらずぬるま湯のように心地よかった。

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