53、桜と自転車 (3/27:さくらの日)

「桜を探しに行こう」

 昼休み早々、そう言って彼女は教室を出ていった。慌てて後を追う。ようやく追いついた時には、すでに自転車にまたがっていた。

 自分の自転車にキーを差しながら、僕は空を見上げた。雲はなく風はやわらかい。出掛けるにはうってつけの天気だ。

 問題があるとすれば、この町には桜がないということだ。探そうにも探しようがないと思うのだけど。

「相変わらず実務家だなあ」

 彼女が笑う。いつものパターン。つまらないことを言っては笑って流されてしまう。

 ぶぜんとする僕を尻目に、彼女が自転車を出す。それを追って僕もペダルをこぐ。

 いつものパターン。傍目からはちょっと情けなく見えるかも。けど、臆病な僕にはちょうどいい。

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