52、やさしい殺人者 (3/25:ご自愛の日)

 インターホンを鳴らす時、緊張から指が震えた。

 この家の一人息子だった野球少年の優弥ゆうやくんを、俺は車で撥ねてしまった。

 もちろん事故だ。が、判決は実刑。刑務所では不満をこぼす毎日だった。

 そんなある日、優弥くんの父親から手紙が届いた。

 目を疑った。

 息子の死については何も触れず、ただ励ましの言葉が連ねられていた。

 文末の『ご自愛ください』を見て、俺は呻いた。初めて罪の意識が湧き起こった。

 出所した俺は、その足で差出人住所へと向かった。とにかく謝罪を――心からそう思えた。

 ややあって出てきたのは優弥くんの父親だった。驚いた顔をした後、彼は微笑んだ。

「よかった。ちゃんと来た」

 そして、手にした金属バットを振りかぶった。

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