51、コーヒー色の風景 (3/23:スジャータの日)

 コーヒー豆は何でもいい。

 そこに注ぐコーヒーフレッシュも。

 ただ情景を思い浮かべながら、そっとコーヒーフレッシュを垂らしていく。すると、その情景がコーヒー表面に白く浮かび上がる。

 原理はエンジェルさんと同じだ。筋肉の不随意運動が頭の中を描き出してくれる。

 目の前のコーヒーには、あの日の光景がまざまざと浮かんでいた。

 月。街灯。そして、彼の後ろ姿。

 水面の揺れるたび、彼の背が遠ざかっていく。あの日と同じように。

 もう、手の届かない背中。

 ぽつん、と波紋が立った。まずは一つ、続いていくつも。

 久しく忘れていた頬を濡らす感触に、私はふと思った。

 あの夜、二人の頭上に落ちた土砂降りの雨。あれは私の涙だったのかもしれない。

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