43、水のある景色 (3/7:さかなの日)

「水?」

「そう」

 トビウオくんが頷いた。

「世界は水で満たされているんだ」

 僕は辺りを見回した。仲間のイワシが泳いでいるだけの、変哲のない景色。

「何にも見えないけど」

「見えないけどあるんだ。水のない世界に行けば一発で分かるさ」

 半信半疑に尋ねる。

「どうすれば行けるの?」

 彼は苦笑いした。

「運が悪ければ行けるよ」

 それから随分経って、僕はその言葉の意味を知った。

 大勢の仲間とともに、見えない力に引っ張り上げられていく身体。弾ける音とともに浮遊感に襲われ、ついで硬い地面に打ちつけられる。視線の先、見たこともない生き物が僕を見下ろしていて。

 ――これが、水のない世界。

 僕の目は急速に乾いて、やがて何も視えなくなった。

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