42、猫 (第84回Twitter300字ssお題:捨てる/棄てる)

 段ボールにさび猫が座っていた。

 捨て猫だ。手を伸ばすと、顔をすり寄せてくる。

「うちに来るか?」

 俺の言葉に、猫は段ボールから出た。

「みーちゃん!」

 声に振り返ると、若い女が立っていた。走ってきたのか息が荒い。

 すぐに理解した。飼い主が戻ってきたのだろう。

 猫がてとてと彼女へと向かう。泣き笑いのような顔で、女が手を伸ばす。

 その手を、鋭い爪が引っ掻いた。

 血のにじんだ手を引っ込め、女が固まる。そんな彼女に背を向け、猫は俺の足下に戻ってきた。目が合う。そこに哀しい光が見えたのは、きっと勝手な投影だろう。

「大丈夫、俺は捨てたりしないよ」

 猫が頷いたような気がした。

 呆然とする飼い主に頭を下げると、俺は猫と歩き出した。

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