39、シロクマの鼻 (2/27:国際ホッキョクグマの日)

 写真家の彼から一葉の写真を渡された。友人の作品だという。

 白い大地に、両手で鼻を押さえた白熊が映っている。現代アートというのか、写真の上には茶色の染みが無造作に散っていた。

「かわいいね」

 私の言葉に、彼が眉根を寄せる。

「その直後に、友人は襲われたんだ」

 白熊が鼻を押さえるのは狩りのためだという。黒い鼻が相手から見えないように。

「写真の上の染みは、その時の血さ」

 悲鳴をあげ、私は写真を放った。と、彼が大声で笑い出す。

「血が写真につくはずないだろう? 現場で現像したわけじゃないんだから」

 ぽかんとしたのも束の間、私は担がれたことを理解した。

 拳を強く握る。一瞬の後、彼は真っ赤になった鼻を両手で覆うことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る