21、世界最高の鼻 (1/9:ブルーマウンテンコーヒーの日)

 彼は世界最高のコーヒーソムリエだった。

 何十種類もの香り成分が織りなすアロマ。彼はそれらを選り分けることができた。だがある日、アロマの中に判別不能な匂いがあることに気づく。

「自分の体臭とか?」

「惜しい」

 私の答えに先輩は首を振った。

「身体の中、胃の匂いだったんだ」

 にんにくなどを食べなければ、通常は意識にも上らないだろう。けれど、彼は世界最高の鼻を持っていた。

「彼は断食を始めた」

 だが胃酸過多で胃が荒れ、余計匂いがきつくなってしまう。

「そこで、彼は胃を全摘した」

 多少予測はしていたものの、私は息を呑んだ。

「……それで、匂いは消えた?」

「いいや」

 先輩が自分の下腹を指差す。

「胃がなくなったら、次は腸だろ?」

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