12、化石に囲まれて (12/20:シーラカンスの日)

「すごいよねえ」

 シーラカンスの化石を見つめ、彼女が言った。

「これが何億年も前から姿を変えずに、今でも生きてるって」

「主任でもそんなこと言うんですね」

 私は茶化した。考古学者としてもう何十年とこの業界に関わっている彼女にしては、いささか感傷が過ぎるように思ったのだ。

「やればやるほどすごさが分かってくるのよ。だから、飽きずにやっていられる」

「成程」

 部屋を見渡す。世界有数の考古学研究所。その標本室には、世界中から集められた化石が整然と並んでいた。

「じゃあ、今日の研究材料持ってきて」

「はいはい」

 私は奥まった棚へ歩を進めると、数百万年前に絶滅したと推定されるホモサピエンス――人間の化石を慎重に持ち上げた。

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