10、見事な品 (12/16:紙の日)

 その黒いつづら箱は、実に見事な折り紙だった。

 表面には入り組んだ螺鈿模様が折り込まれており、これが一枚の紙からできているとはにわかには信じられない。

 ふいに、ガラスの向こうから無遠慮な視線が飛んでくる。つづら箱を置いたちゃぶ台の前には、青い顔をして固まっている古物商。じろじろと見つめた後、視線の主は去っていった。

 そのちゃぶ台もまた、優れた折り紙だった。殊に、きれいな円形を描いた天板はまさに神業と言えるだろう。

 また、視線が飛んできた。古物商は相変わらず固まっている。折られた姿のままで。

「ねえ、パパ」

 展示ケースを覗き込んだ少年は、父に尋ねた。

「この『胡坐をかいた古物商』っていう折り紙、何で青色なの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る