第3話 ■黒くて大きなアソコを開くと中からアレが出てきました。アレというのは気持ちがいいことをするとできるアレです
私は女子高生の連続殺人鬼。
躊躇うことなく社会のダニを殺す鬼。
なんで私がこの社会に生まれてきたのか、
どうして私の親は赤ん坊だった私を捨てたのか、
なぜこの社会はこんなにも生きにくいのか。それを知りたい。
この時、箱の中身がそれを教えてくれることになるなんて、思ってもいなかった。
=====
私は箱の中から出てきた得体の知れない不気味なそれを見て、
「一体何なのよこれ……?」
「これって生でセック……」
「そうよね? これ気持ちがいいことするとき……」
私たちは戸惑う顔を見合わせて、
「「どうしよ……?」」
私とサヤカは階下に降りて、箱の中に入っていたアレをどうするか相談することにした。
孤児院は二階建て。
空き家をもらってそのまま孤児院として利用している。
ここでは私たちのように身寄りのない捨て子が、生活を共にしているのだ。
私とサヤカは共に十六歳。
親のいない私たちにとって、お互いが唯一の家族だ。
誰も信じられないこの腐った社会で、信じる相手がいるのは、案外幸福なことなのかもしれない。
サヤカは、
「私コーヒー入れてくるね」
「いいの? じゃん負けでもいいけど?」
「だって、ちぃちゃんとじゃんけんしても、あいこにしかならないじゃん!」
私の特技は、人を殺すことと、じゃんけんで必ずあいこを出せること。
どういうわけか知らないが、なぜかいつもあいこになる。
だから孤児院の中で私にじゃんけんを挑むのは、終わりのないゲームに参加することと同義なのだ。
初対面の人にこの特技を見せると、いつも不思議がってくれて私は少し得意になる。
私には親がいなくて誰も褒めてくれない。だから、じゃんけんするときは自分が特別な存在になれるような気がする。
人から『すごい!』って言われるのが堪らなく嬉しい。
じゃんけんであいこを出せても、何にもならないのに。
=====
サヤカは熱いコーヒーを飲んで一息つくと、先程の赤ん坊に話題を戻す。
「きっとあなたに送られてきたものよ。誰かが殺してくれって」
「でもなんでここの住所知っているのよ? それにお金もらえないなら殺しなんてしたくない」
「それは成人している人を殺すときだけでしょ?」
今日仕留めた獲物はヤクザ四人。報酬はしめて八〇万。社会に蔓延るダニを殺しても、一匹あたり二〇万しかもらえないが、高校生の私にとっては大きな収入だ。
この社会は金が全てだ。行った善行の数より、通帳の数字の方が評価される社会。
婚活では年収と年齢がまず問われ、
就活では大学の偏差値だけを見られ、
仕事では集めた金の量が多いやつが、一番善良な人間だ。
面接官は、そこに『人』が書かれているかのように『数字の書かれた紙』と睨めっこする。
気づいてますか? その紙きれは私じゃないんだよ?
その数字も私じゃないし、学歴も私じゃない。私はそこじゃなくて、ここにいるよ?
まるで私たちは、値フダをつけられる牛の子供のようだ。
私たちがいる『ニコニコ孤児院』は完全な経営破綻。
今時誰も、どこの誰とも知らない他人のことなんて構っていられないのだろう。
孤児院への募金額、支援額は年々減っていき、ついに自分たちで食い扶持を稼がないといけなくなった。
みんな自分の人生を生きるのに必死なんだ。
仕方がないことだ。
『お前の人生は裕福だから、私にちょっとくらい恵んでくれ』
そんなことは、どれだけ恵まれている人も考えている。
現在孤児院にいるみなしごは全部で一七人。その多くは、まだ子供。無責任な性○為によって生み出された命の焔。
孤児院の目の前に捨てられているのを管理人さんが見つけたのだ。
みんな自分がなんのために生まれてきたのか、なんで親は自分を産んだのか、わからないまま生きている。
私はコーヒーに砂糖を入れるため目の前の瓶を取った。瓶を開けようとするが、開かない。
(変だな……? 今朝は男の首を刀で切断できたのに……)
私は日によって筋力や心理状態がコロコロ変わる。医者によると、孤児にはよくある話らしい。
心因性のトラウマで、心身の状態が安定しないらしい。
サヤカは、瓶をひったくると、
「貸して? 開けたげる!」
だが、
「うーん! うーん! ダメみたい……」
サヤカも砂糖の瓶を開けることはできなかった。
私たちはそのまま苦いコーヒーを口に運んだ。その後、私たちは当たり障りのない話をした。
箱の中身についてお互い触れたくないのだ。
「ちぃちゃん、また孤児院の前に子供が捨てられていたって? 知っている?」
「うん。だってその子、私が門のところにいるの見つけたもん」
「えぇ? また? 次は絶対に私が見つけて名前つけてあげるんだから!」
「だめ! それは私の役割!」
しばらく近況について語り合ってから、サヤカは話題をさっきのアレに戻した。
「それでどうしよっか? さっきの箱のやつ殺す?」
サヤカはこの世界で私の正体を知っている唯一の人間。
私の正体は、孤児専門の殺人鬼。
哀れな孤児をこの世から消してあげるのが私の役目だ。
サヤカはいつもそんな私の殺しを応援してくれる。
「殺す? さっきの箱の中身のを?」
「うん……だってそれがちぃちゃんのライフワークなんでしょ? ほれ! 腕かして!」
サヤカは私に腕を差し出す。私たちは腕相撲しながら会話を続ける。
私とサヤカは同年代なためライバル意識が強い。
相談事がある時は、腕相撲したりしながらすることが多い。
私は右腕に力を込めながら、
「ライフワークって……」
「違うの?」
「違いません………けどっ!」
サヤカも負けじと力を込めて腕を押し返してくる。
「でしょ! じゃあ殺してあげようよ! さっきのアレが大きくなったらどんな目にあうか……骨身に染みているでしょ? ねっ!」
お互いが腕に渾身の力を込める。
だが腕相撲の結果は、引き分けだ。
「また引き分けか……!」
サヤカと腕相撲するときいつも引き分けになっている気がする。
「ふふん! 次こそは私が勝つわよ! それで? さっきのアレ殺す?」
「でも……もう死んでたでしょ? 色も変だったし……」
「ううん! 触った時、暖かかったよ? 部屋に戻って触ってみる?」
「ええっ? 嘘でしょ!」
私たちは、さっきのアレをどう処分するか決めるため、再び二階の部屋に戻った。
廊下を足音を立てないように進み、二階の角部屋に戻る。
部屋には、『ちさとサヤカの部屋』と子供の字で書かれたドアプレートがある。
私たちが小さい頃に作ったものだ。
あの時は、まだ人生に絶望などしていなかった。
部屋に入ると、さっきの箱はまだテーブルの上にあった。
私は再び蓋を開けて、中を見る。
箱の中に入っているのは、人間の赤ん坊だ。ただし、目も口も鼻も耳もアソコも全てが真っ黒の赤ん坊。(赤ん坊は男の子らしい)
見た目は普通の赤ん坊だが、肌が漆黒に塗りつぶされている。
ペンキや絵の具で塗ったというより、最初から漆のような黒色なのだ。
額には、算用数字で『001』と書かれている。
私はその赤ん坊に恐る恐る触れてみた。
すると、
「本当だ。暖かい……」
赤ん坊は間違いなく生きている。
そして、驚くべきことが起こった。その赤ん坊は目をカッと見開いたのだ。冷たい瞳で私を見つめる。
赤ん坊は、口を開きはっきりと、
「おいお前……! 名前と番号は?」
サヤカは
「えっ! しゃべった? 変ね……さっき私が触った時は無反応だったのに!」
サヤカには反応せず私にだけ反応した。
「どこの誰が……こんな趣味の悪いことを!」
私は感情の昂りを感じた。
体の奥底から殺意が湧き上がってくる。
この子を見ていると、捨てられた過去を思い出してしまうのだ。
勝手に産まれ、勝手に捨てられ、勝手に不幸を押し付けられた。
誰にも必要とされず、誰からも求められないあの痛みを思い出した。
私はテーブルから大振りのナイフを取り出す。
「え? ちょちょ! ここで殺すの?」
「見たくないなら離れてろ!」
私は赤ん坊の断末魔が聞こえないようにテレビをつけ、音量を上げた。
『速報です。また例の殺人鬼が出ました。今度の犠牲者は四人です。被害者は指定暴力団の黒柳会のメンバーらしいとのこと。警察は総力を上げて……』
私はナイフで赤ん坊の喉に狙いを定める。
そして、肩と二の腕に在らん限りの力を込める。
ニューロンが発火し、筋繊維が膨張する。
「私が楽にしてあげる……私のこと……許さなくていいからね……」
赤ん坊は今から何をされるかわからないのだろう。
再び目を閉じ、安らかに眠っている。
私はナイフを振り上げ、
「死ね!」
思い切り赤ん坊に突き立てた。
(第四話『B・B・B』へ続く)
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