第2話 ◆生々しいナマ行為  〜歪んだ欲望を満たしまセんか?(生々しいので閲覧注意!)〜


男は私に覆い被さり、

「俺たち黒柳組に抵抗しようと考えるなよ! この社会では正しいことをした奴じゃなくて、容赦のない奴が勝つんだよっ!」


容赦のない奴が勝つ社会。彼の言っていることは何も間違っていない。


私は彼の手を勢いよく、払い除けた。

「おっと今更、抵抗しても女の力じゃ何もできないぜ!」


男女の間に筋力の差があるのは周知の事実だ。

基本的に男性の方が女性より力が強い。


男に馬乗りにされて押さえつけられたら、女性は抵抗することなんてできない。

大人しく終わるのを待つか、舌を噛み切って自殺するかくらいだ。


「さあ……大人しくしてればすぐ済むからよ! 美味そうだ!」


体の大きい男性を倒したいなら、それより体が大きい男性か、小柄でも筋肉質な男性を連れてくるべきだ。


こんな場所に、女が一人でのこのこ行くべきではない。

社会では太古の昔から女性は、力の弱いものだとされてきた。


彼は私の制服姿を見て感情を昂らせる。これから歪んだ欲望を満たすつもりなのだろう。

「処女だから血が出るかもな……だけど安心しろ! 痛いのは最初だけだっ!」



ビチャッ!


そして、一筋の血が白いシーツに川を描いた。


彼は私の……いや、私が彼の体を欲望のまま貪ったのだ。


ヤクザは何が起きたのか分からず、ベッドの上で血を流す。首からじんわりと赤い花が咲いている。


そして、数秒遅れて貫くような痛みに気づいた。彼は首の傷を押さえながら、

「ぎゃあああああっ! なんだ! 何しやがった!」


私は隠し持っていた小型の刃物をぽいと捨てる。


「知ってるか? 実は筋肉には男女差がないんだ。形も構造も構成比率も同じなんだ。違うのは太さだけ……女性が男性より筋力がないっていうのはただの勘違い……ちゃんと鍛えれば女性でも強くなれるんだ」

(1994 日本理学療法士協会の研究を参照)


私はベッドの上から飛び降り、壁の日本刀に手を掛ける。刀には、黒い柳のマークがある。黒柳会の家紋なのだろう。


「……世間では、収入が少ない人、容姿が優れていない人、学歴・職歴がない人をよって集って潰すのに……なんでお前らは誰からも叩かれないんだろうな?

私からしてみれば、お前ら社会のダニが、なんでまだ許されているのか不思議でしょうがない」


慌てた様子の部下が首を切られた男に駆け寄る。

「兄貴! 大丈夫ですかっ?」


「きっと思うに、みんな競争に疲れたんだろうな……受験戦争に、ビジネスでの潰し合いで心をすり減らしているんだ。

だから自分より弱い奴を見ると虐めて、しょうもない自尊心を満たそうとするんだ……」


「てめえ! 何しやがんだ! 俺たち黒柳会に逆らったらどうなるかわかってんのか!」


私は日本刀を壁から外し、鞘から引き抜いた。

シュリンと爽やかな音がして、青白い光を放つ殺人凶器が静かに唸る。


「人間は元来、人を傷つけるのが苦手な生き物なんだ。

汚いのは人じゃなくて、競争させる社会だ。


人間は誰かを助けることが得意な生き物なのに、お前らのようなくだらない人間だらけの社会になってしまった。


でも安心しろ……お前らは悪くない。汚れているのは人じゃなくて社会の仕組みだ……」



私は抜き身の日本刀を手にゆらりとダニどもに近寄っていく。

赤ちゃん部屋の空気は、ピリつき今にも割れて弾けそうだ。


燃焼する空気が肺に溶ける。蒸発する殺意が肌を溶かす。


ニューロンが発火し、筋肉に電気を送る。

収縮した筋繊維は肥大と収縮を同時に行う。


ダニどもは自分の運命を悟ったのか、虫けらのように地べたを後ずさる。


「待ってくれ! 降参する! 降参するから!」

「警察を呼べ! 早く助けを呼べ!」

「なんなんだこの女はっ!」


私は這いつくばるダニどもを見下げて、

「確かこの社会では……容赦のない奴が勝つんだったよな?」



=====



警察が来たのは全てが終わってからだった。

年配の警官は、血みどろになった赤ちゃん部屋を見て、

「なんだこりゃ……」

ベッドには、監禁と凌辱から解放された女性が座っている。


女性はどこかスッキリした表情で、ようやく訪れた平和を享受する。


「良かった……もう乱暴されないんだ……神様……ありがとう」

また別の女性は、自身のお腹をさすりながら、

「この子と別れなくていいんだ……信じられない……奇跡みたい」


他の女性は、

「本当に解放されたのね……やっと……やっと……」


地面には、切り刻まれ、バラバラになったヤクザの死体が散乱している。

一部はベッドの下に転がり、一部は無造作に床に飛び散り、また一部は天井に張り付いている。


彼らの肉体は、ベッドのシーツや壁の薄汚いシミとなったのだ。


警官は、女性の一人に近づき、

「怖い目にあったな。だがもう大丈夫だ。それで……頭のイカれた悪者はどこいったかな?」

「もうみんな死にました」


「いや違う違う! こいつらのことを言っているんじゃない! こんな小物どうでもいい! あの狂った女子高生はどこへ消えた?」



=====



服を着替えた私は町外れに位置する孤児院の前に来た。高い壁についているインターホンを鳴らす。鈍い電子音が響き渡る。


しばらく待つと、インターホンから

「どなた?」

私はそこに向かって、

「私! ちさ! 開けて!」


「おかえり!」

そして私は孤児院に……家に帰った。


私は捨てられた子供だ。

なんで捨てられたのかも、

お母さんはどうして私を産んだのかも、


お父さんがどうして私を探しにきてくれないのかも知らない。


私が欲しかったから産んだんじゃないの? 私がいらないなら、なんで作ったの?

小さい時から、私はその答えが知りたかった。だけど、今もまだ答えがわからないでいる。


私が孤児院に入ると、ルームメイトのサヤカが出迎えてくれた。髪は黒髪ショート。銀縁メガネに不健康そうなニキビ。


手には、いつも学術系の本。私も彼女に触発されて読んでみたがこれがなかなか面白い。


彼女は私を見ると、

「赤ん坊殺しの帰り?」

「うん! 今日は獲物なし。○○○しようとしてきたヤクザを四人殺したけどね!」


「そっか! みんなもう寝てるから静かにね! あと部屋に変な荷物が届いているよ!」

「変な荷物?」




部屋に戻ると私の机の上に、真っ黒な箱が置いてあった。

それは大きさ三〇立法センチほど。

宛名も差出人もなく、ただ『開けないでね』とだけ書かれている。


「これ私宛て? こんなの頼んでもないし、私に荷物を送る人なんていないと思うけど……」


「ええ? ちぃちゃんのでもないの? 施設の子供達全員に聞いたけどみんな『私のじゃない』っていうから……てっきりちぃちゃんのかと……」


「私こんな不気味な箱いらない。明日郵便局に返しに行ってくるね」

「えっ! 開けてみなよ! もしかしたらお母さんからかもよ?」


お母さんが私に宛てた荷物?


もしかしたら私の出生の手がかりが掴めるかもしれない。

もしかしたら両親が、私をずっと探してくれていたのかもしれない。


「わかった……開けてみる。でも変なものだったらすぐ捨てるからね?」

「うん! 私も見てるから早く開けなよ!」


「じゃあ……開けるね……」

私は『開けないでね』と書かれた蓋をゆっくりと外す。


この時は、知らなかった。自分が危険極まりないものを偶然手に入れてしまったことを。

これを手にすることにより、世界は変わる。


あれだけ私を蔑ろにした世界が私の価値にようやく気づき、傅(かしず)き、跪き、崇め、褒め称えるのだ。

この中に入っている力は世界を揺るがす魔法と奇跡。


ゴミのような扱いを受けていた私の……復讐が始まる。


私たちは箱の中身を見て、

「「え? これ生きているの?」」


箱を開けるとそこには生きたままの……(『黒くて大きなアソコを開くと中からアレが出てきました。アレというのは気持ちがいいことをするとできるアレです。』へ続く)



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