第43話 回転する世界

キーン、という耳鳴り。


なぜか、うつ伏せになっていた。あの瞬間、何が起こった?覚えていない。頭がくらくらする。


死んでない、のか、おれ。瞬きをして、頭を振った。周りを確かめる。そうだ、皆は?


ゲンとミコトが目の前にいた。ゲンが、ミコトをゲンが庇って、一緒に倒れている。

でも、無事そうだ。


コウタとハルカは?


背後で、ハルカの声が聞こえた。振り返ると、粉塵が巻き起こる中、ハルカが巨人に向かってナイフを投げている。


巨人は突っ込んで、壁にぶつかった後、瓦礫に埋もれていた。もがいて、抜け出そうとしている。


ハルカのナイフは、巨人の後頭部に直撃したけれど、呆気なく弾かれてしまった。

無理だ。巨人は兜と鎧を身に着けている。あんなもの、虫から攻撃されるのと同義だ。


「うぉおおおおおおっ!!」


コウタも動けない巨人の関節を狙って槍で攻撃しているが、うまく貫通させることができないようだ。


「くっそっ…!?硬すぎだろ、こいつ!?」


突然、巨人がぐるっと身体を翻した。足元にいたコウタを睨むように見下ろす。

巨人は素早い動きで、瓦礫に埋もれていた大剣を振りかざした。


「やっべっ!?」

コウタは槍を横突き出して防御態勢に入る。


でも。あんな細い槍じゃ、まずい。


もともと、<槍士ランサー>は防御に不向きだ。しかも、あんな大剣が相手となると、相性が悪すぎる。あれをもろに受けてしまったら。


ぞっとした。


おれはゲンを見た。駄目だ。ゲンはダメージを受けているようで、まだ立ち上がれていない。ミコトも。ハルカもコウタを守れる術を持ってない。


どうする?


違う。何、人に頼ろうとしてんだよ。


脚。動く。腕も、剣を握る。どこもそれほど痛くない。

考えてちゃ、だめだ。皆が無理なら、自分が行け。考えずに、走れ。


おれは振り下ろされる剣とコウタの間に割って入った。


コウタを押しのける。剣が目前に迫っていた。怖いとか、そういう感情すら沸く暇がないほど、一瞬だった。


ビリビリと、ノイズが走った。


身体が、浮く感覚があった。足が地面から離れる。世界が数回、いや数十回ぐらい回転したようだった。


背中に鋭い痛みが走る。激痛。


激痛?なんだろう。息が出来ない。空気を吸えない。吐けない。痛い、熱い、苦しい。


けれど。


死んでない、と自覚できるぐらいには正気を保てていた。


まあ、ね。死ぬほど痛いけど。むしろ、意識失った方がよっぽど楽だろうけど。本当に、無茶というか、慣れないことをするもんじゃない。


瞼を持ち上げる。コウタは無事だったようだ。尻もちをついて、こっちを見ている。ひどい顔だ。死人を見るような目だ。


「ヴォ・トゥ・リ・イェラ」


聞き慣れない言葉が響いた。これは、ミコトの“呪文スペル”だろうか。


直後、巨人の後頭部で炎が爆ぜた。巨人が、ゆっくりと後ろを振り返る。


「おらぁああ!!お前の相手はこっちだ!デク野郎!!」

ゲンは喉がはち切れんばかりに叫んだ。がっと、大きな盾を地面に叩き付ける。


「くるならこいやぁっ!!」

「———————————————————っ!!」

巨人が、ゲンに狙いを定めたように、奇声を上げた。


ぼんやりとする視界の隅で、巨人がゲンを追いかけているのが見える。どうやら、巨人を引き付けているみたいだ。

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