第42話 激震

巨人は、腰に引っ提げていた剣に手を伸ばす。一気に抜き放つと、綺麗な刀身が現れた。


「おい、おいおいおいおいおい!本気か!?」コウタが慌てて武器を手に取る。


巨人の剣は、思った以上に大きかった。普通に、大人の人間の背丈ぐらい、あるんじゃなかろうか。それを、振り回す気なのか?ここで?


巨人が一歩足を踏み出した。ずしん、という地響きで地面が揺れる。


ずしん。ずしん、ずしんずしんずしん。


巨人が巨体を揺らし、迫り来る。大きな剣を、振りかぶって。


「避けろぉっ!!避けろ避けろ避けろぉおおおおっ!!」


ゲンの雄叫びが地響きに紛れて微かに聞こえた。言われなくても、もう逃げている。

てか、逃げないと死ぬって。


振りかぶった剣は皆が散り散りになった場所に叩き付けられた。ものすごい音が、耳元で弾けた。鼓膜が、びりびりと悲鳴を上げる。


見ると、叩き付けられた場所は、瓦礫と砂ぼこりで大変なことになっていた。綺麗に床に敷かれていたタイルはバラバラになり、跡形も無い。


「おい!皆無事か!?」

ゲンの声だ。「ああ!!こっちは!!」おれは出来るだけ大きな声で答えた。


「ミコトと私も無事よ!」ハルカはミコトを庇って一緒に避けたようだ。「お、俺も…」

どこかでコウタの声が聞こえたけれど、どこにいるんだろう。


巨人の目が、不気味に瞬いた。振り下ろした大剣を、ゆっくりと持ち上げる。


「ゲン!どうするんだ!?またきそうなんだけど!?」

「とにかく、皆出口に逃げろ!!それしかない!」


おれは出口を探した。そりゃあそうだ。こんなやつ、相手にしていられない。逃げるが勝ちだ。


——でも。いくら探しても、出口らしきものが見当たらない。


「あ、あれ?出口は…?」冷や汗が額を垂れていく。


「だ、だめ!出口塞がっちゃった!!」ミコトが大きな声で叫んだ。


おれたちがこの部屋に入ってきた通路は、さっきの衝撃で、瓦礫の山になっていた。


…は?

閉じ込められたってこと?


「…いや!まだあっちにあるぞ!?」今度はコウタの声が向こうの方から聞こえた。


あっち?と一瞬考えたが、そういえばと思った。巨人の背後には、まだ通路があったはずだ。


「…っ!?こっちからくるぞ!!」ゲンが何か言った。もう、あっちやらこっちやら、よく分からない。頭の中がごちゃごちゃだ。


おれは巨人に振り向いた。巨人は、右手に持った剣を左肩まで回している。横薙ぎがくる。


でも、この部屋は巨人が暴れるには狭い。横に振られると、逃げ道が少ない。どうする?


どうする、じゃない。


おれは瓦礫の方へ飛び込むように緊急回避した。直後に、ぶわっと頭上を重々しい何かが過ぎる音が聞こえる。


「…あ、」

危なかった。足元から恐怖が這い寄る。心臓が飛び出そうだ。


けど。


おれは恐怖で一瞬、頭の中が冴えた。冴えたというか、頭の中が空っぽになった。それで思考が切り替わった。巨人の一振り一振りの威力は馬鹿みたいだが、そのあとの隙は大きいことに気付く。


巨人は壁にめり込んだ剣を引き抜いている最中だ。おれは素早く立ち上がった。


逃げるなら、今だ。


皆も、態勢を立て直して、今のうちに奥の通路の方へ逃げている。前方にミコトとゲンの姿が映った。コウタとハルカはまだ後ろにいるが、彼らなら大丈夫だろう。


これなら。


そう思うのは、早計だったかもしれない。


逃げている途中で、変な音が聴こえた。ごおおおっという炎が噴き出るような音。


なんだろう。ミコトが魔術で発生させる炎の音に似ている。おれは振り向いて驚いた。


ような、じゃない。そのものだ。


巨人の腰あたりから、本当に炎が噴き出ている。そして、やばい、と頭が実感する間もなく。


巨人が炎の勢いに任せて、突っ込んできた。


「ばっ—————」


音が消えた。

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