第30話 一進一退
こうやって、目的にたどり着く前に、予想外の敵と遭遇してしまうケースは多々あったりする。
それはぶっちゃけ、その時の運だ。運が良ければスムーズに事が進むし、悪ければ何度も何度も敵と遭遇、エンカウントしてしまう。
その場合重要なのは、情報だ。どこにどんな生き物がいて、どういう状況なのか。それをいち早く把握し、その情報を共有する。
でないと、全く情報がない魔物が現れでもしたら、その分対応が遅れてしまう。魔物によって、戦い方が違ってくるからだ。
例えば、前回戦ったザルシュ。やつらはボスを中心に、群れを成している魔物で、腕の骨と、筋肉が発達している。気性は荒々しく、好戦的だ。そういう情報があるから、事前に準備して、戦いの危険をできるだけ排除することができる。
けれど、そんな情報がないと、どう戦えばいいか分からない。もちろん、予想外の状況にすぐさま対応する能力も必要だ。ただ、そんな戦い方を繰り返せば、必ずどこかでボロが出る。
一つの判断ミスが、死へと直結する。
だから、情報共有と、準備。これも傭兵にとって、鉄則みたいなものだ。
今回、情報がない敵を目の前にして逃げることができたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。
もっとも、それだけで片付けられれば、本当に楽なのだが。
「なんか最近、俺たち運悪くねぇ?」
コウタが両腕を後ろ頭に持ってきた状態で、空を見上げた。
「そうね、ホント疫病神引っさげて来ないでよね、コウタ」ハルカは面倒くさそうに言った。
「そうなんだよなぁ…って!さりげなく俺のせいにしないでくれる!?」
「え?あんたじゃないの?」
「俺じゃねえよ…!何勝手にトラブルメーカー扱いしてんの?むしろ悪運は強い方よ?俺」
「確かに、コウタ君ってゴキブリ並みにしぶとそうだよね」ミコトはうんうんと頷きながら賛同する。
「…ミコトそれ、褒めてんの?」
「ん?褒めてるよ?」
「……全然褒められてる気がしないんだけど」
結局、おれたちはアルドラの街に帰ってきて、宿舎で焚火を囲っていた。
ウェアウルフ一匹一匹は低級の魔物だが、大きな群れを成しているときは非常に危険だ。狡猾で、狩りの能力に長けているため、中堅の傭兵でも手を焼くほどらしい。
そんな魔物が狭間の森に移動してきたとなると、まず傭兵ギルドに報告しなければならない。情報を伝えて、早めに対処するためだ。そのためにおれたちは街へと帰還し、ギルドに報告を終えていた。
早めに帰ってきたので、まだ日が明るい。と言っても、もう夕方か。いつの間にか、太陽は宿舎の屋根に、顔を隠そうとしていた。
「でも、あれだね。ここのところ、魔物の移り変わりが激しいね」
ミコトは焚火に木の枝をくべながら言った。
「そうだな。おかげで、対応するこちらはてんやわんやだ。稼ぎも落ちるし、良いことは一つもねえな」ゲンは焚火の火を見つめて呟く。
そうだ。今気付いたが、今日、何もできていない。ただウェアウルフと戦って、ギルドに報告をして、一銭にもなっていない。金じゃなく、疲労が少し溜まっただけだ。何、上手いこと考えてんだろ。
それは、おれたちにとって死活問題だ。ただでさえ生活が厳しいのに、一日稼げなかったのは、相当な痛手になる。
けっこう、やばいんじゃないか?
「…あいつも」ハルカが急に、ぼそっと声を漏らした。
「あの黒い化物も、どっかからやってきたのかしら…」
黒い化物。一週間前、おれたちが遭遇した魔物のことだ。一応、そのことも傭兵ギルドに報告したが、結局あれが何だったのか、未だに分かっていない。
「どうなんだろうな。もしかしたら、何かの新種だった、のかも?」
ゲンが首を傾けた。
その可能性も、無くは無い。実際、今まで発見されていない魔物は、まだまだ存在するだろう。それに、何かの拍子で生まれた亜種と言うこともあり得る。断言はできないので、考えても栓の無いことだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます