第21話 アルドラの街

大昔、戦争が起こったらしい。


どれぐらい昔かなのかは、定かではない。というより、それほど詳細に聞いたわけではないので、そこら辺はよく分からない。でも、大きな戦争があったのは事実だ。


多くの種族同士が、戦って、多くの人々が死んだ。たぶん、想像しているよりも、いや、自分のちっぽけな頭では想像できないくらい多くの人が死んだんだと思う。それほどまでに、激烈な戦いだったのだろう。


その戦いの爪痕が今も残っているのが、このアルドラの街だ。ここが、おれたちの帰る場所、拠点でもある。


近づくにつれて、白い何かはみるみる大きくなり、見上げるほどの高さの壁になった。ずっと見上げていると首が痛いくらいだ。こんな高い壁、いったいどうやって造ったのだろう、とこれを見ると毎回思ってしまう。


白い壁にはめ込まれている扉も、相当でかい。ゆうに四メートルはある。堅牢で分厚い扉の門をくぐると、もうそこはアルドラの街の一角だ。


この街は地上数十メートルに及ぶ白塗りの壁にぐるりと街一つ分覆われていて、一帯を囲んだこの壁は、昔は敵の襲撃から街を守るために造られたものだったらしい。


そのため、外壁にはたくさんの傷跡が刻まれていたりする。街の中にも、戦争時の建物が残っていて、それは修繕され、今でも移住区として利用されている。


門を抜けると目の前は、この街一番の大通りだ。


現在では、活気が戻って、旅人の街として知られている。アルドラはちょうど、他の街と街を繋ぐ、中間点となるらしく、多くの商人や、旅人がこの街を訪れ、休息をとり、英気を養ってから、また旅立っていく。


大通りはいつものように賑わっていた。特に、夕暮れは書き入れ時だ。大通りの脇にはたくさんの露店が立ち並んでいる。武器、骨董品から雑貨、飲食店に至るまで、様々な種類の露店が大通りの端から端まで埋め尽くし、店の店主が客呼びをする大きな声が、あちらこちらで飛び交い、喧騒をつくり出している。


それにしても、本当にすごい賑わいようだ。まるでお祭りにでも来たかのような大通りを、おれたちは人をかき分けながら通り過ぎる。


「あー」ミコトがお腹を押さえて呟いた。「お腹減ったぁ…」


「確かに…」

自分の腹を触ると、ぐう、と情けない音が鳴った。そういえば、昼から何も食べていない。そりゃあ、腹も減るわけだ。


この辺りは、特に飲食店が密集しているエリアだ。色んな食べ物の匂いが混ざり合って、ほとんど原型を留めていないが、その匂いがさらに食欲をそそる。


目の前に、薄い煙が覆いかぶさった。肉だ。焼肉の香ばしい匂いがする。その煙の出所を見ると、ジュウジュウと音を立てて、串肉が炭火で焼かれているところだった。


「…………」

不意にコウタが何も言わずに、ふらっとそちらへ歩いていった。


「あ、こら!」ハルカが反射的にコウタの首根っこを鷲掴み、引っ張った。

「ぐぇえっ!?」コウタは苦しそうにもがく。「は、放せぇっ!お、俺はあれを食い尽くすんだぁっ!」


「バカ言ってないで、先行くとこあるでしょ」

ハルカは構うことなく、ずるずると、コウタを引きずっていく。「う、うぁあああああ!」

と叫ぶコウタは、ちょっと哀れだ。

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