十三 探梅

月影柴門裡  月影 柴門の裡

風聲古木哀  風聲に 古木哀し

痩枝梅已發  痩枝 梅已に發く

冬盡暗香來  冬盡きて 暗に香來る


 日課となった夜の散歩での話。もうすぐ我が家にさしかかる路地の手前に、少し古びた一軒家がある。周りに巡らせた生け垣が黒々としていた。見上げれば満月。ちょうど逆光になっていたのだろう。

 一月も終わり近くになって、寒さはやや和らいでいる。だが葉の落ちた木のシルエットは、夜風の音とあいまっていかにも寂しげである。そのシルエットの枝先に、わずかに白いものが見えた。

 痩せた枝先に見えた白は、今年初めての梅だ。いくつかあったはずの蕾は、夜の暗さで気づけなかった。にじむように見えた白は、寂しげに感じた梅の木の微笑みであるとも思える。思わず一句詠んだ。


 白くにじむ梅一輪や月の夜


 こうやって、冬が少しずつ去っていくのだろう。季節が一気に変わることはない。微かに梅の香りがする。風はまだ冷たいが、その冷たさに乗せた梅の香りは、一足早い春の知らせでもある。

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