第5話
電話が終わると部長は俄かにホッとした表情をみせる。
「部長。今の電話、例の件ですか?」
近くにいた山岸の部下が問いかけた。
「あぁ黄色で決定だ」
「部長の言った通りですね」
「そうだな。古いものはいい加減新しくせんとな。早速試食品を持ってくるそうだ」
ーー黄色で決定。やっぱり。
ナツメはあのきつね達のことが心配でならなかった。もし本当に赤いきつねや緑のたぬきが商品としての終わりを迎えたら、あの子たちも一緒に消えてしまうってことを。
昼休み。部長は愛妻弁当を手に、いつものように屋上で食べると事務員に告げた。これは直談判のチャンスだと、ナツメは上着を羽織って部長のあとを追う。
昼休みのみ開放される屋上にベンチなど気の利いたものはないが、時々社員が気晴らしに上がってくる。部長はいつも折り畳み椅子を持参し、屋上でひとり弁当を食べる。この日も定位置で弁当を広げた。
「部長ーー」
屋上の風はナツメの前髪を軽くあおり、眉間に皺がよった表情をおひさまが照らす。山岸はチラッと目を向けてから弁当に手をつけた。
「何だ」
「単刀直入に言います。黄色いあさりの販売をやめてほしいんです」
「ん? 何で川原がその話を知ってるんだ」
「風の便りで」
「風? よくわからんやつだな。だけど黄色いあさりは決定事項だ」
「メインの赤いきつねや緑のたぬきはどうするんですか」
「あさりを使う」
部長は筑前煮を見つめ、何から食べようか箸を泳がせ人参をつまむ。弁当の前では川原の言葉など風に等しく、部長は殆ど目を合わせないでいた。
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