第8話 一部性描写あり。

「リリウム! ああよかった、帰りが襲いからてっきり魔物にやられたのかと……!」

 自宅へと着いたリリウムを父らしき人物がそう迎えた。


 村に辿り着いた頃にはすっかりと日は落ちていた。手元の腕時計では19時を示している。この世界には電灯が存在しないので、日が落ちてしまうと周囲を照らすの松明のみだ。


「お父さん、この人達が助けてくれたの」


「そうだったんですか……ありがとうございます。見慣れない服装ですが、ここらの人ではないのですか?」


「ええ、俺達は異世界から来ました。もしよろしければお話しと、今晩の宿を借りれないでしょうか」


 リリウムの父は異世界という単語に怪訝な表情を見せたが、最終的に娘を救ってくれた恩人に恩を返す事を優先したようだった。


「部屋は空いていますのでそちらをお使いください。ちょうど夕食の時間でしたので、食べながら話しましょう」

「ありがとうございます」


 そうして案内された二人は、リリウム達と食卓を囲んだ。やはり食糧事情はよくないらしく、クズ野菜のスープと異様に硬いパンが夕食だった。パンはスープに浸して柔らかくしなければ噛み切るのも難しかった。


「この地方は穀倉地帯にもなれないような土地しかないもので、こんなものしか用意出来ませんが許してください。あ、申し遅れましたが僕はウォルトと言います」

 リリウムの父であるウォルトは申し訳なさそうにそう言った。


「いえ、食事を用意してくださるだけでもありがたいです。俺はユウ、彼女はマリアといいます。それでなんですが、俺達は先程も言ったように異世界人です。なので、この世界の情勢を軽くでいいので教えていただけないでしょうか」


「情勢、ですか……僕もこの村を出た事はないので人伝に聞いた話程度しかお話し出来ませんが……」


「構いません。今はとにかく情報が欲しいんです」


「そうですか。と言っても、あまりお話し出来るような事はありませんよ? 僕はあまり物を知らないので……。この地方のヒト属は主に帝国に支配下にありますし、それ以外の種族は皆帝国の奴隷になっていますしね」


「この村も帝国の支配下にあるんですか?」


「いえ、見てわかるようにこの村は何もありませんので、支配すらしてくれない始末です。今帝国は亜人の奴隷を増やす事に注視しているようですからね。こんな寒村には構っていられないんでしょう」


「帝国の規模は?」

「さあ、そこまでは。ただ、この後の出兵を目撃したらしい商人が言うには10万人規模だったとか」


 それまで黙って話しを聞いていたマリアが「やっちゃったかもねえ」と言った。ユウもマリアの言わんとしている事を理解していたので、「そうだな」と返した。


 ユウ達は森の中で帝国兵と思われる兵士を殺した。彼らがどういう目的であの場にいたのかはわからないが、もし後続の兵士に死体を見られれば、下手人探しが始まる。そして、目下犯人として最も怪しいのはこの村の者という事になる。


 そうなってしまえば、今までの帝国の話を聞くに村に対する侵略行為が起こるのは目に見えている。


「日が昇ったら急いで死体を片付けに行こう。今帝国と事を構えるのは得策じゃない」


「次から次へと問題が起こってやんなっちゃう。あたしはのんびりしたいのにぃ」


「元の世界に戻ったら暫く休めるようカスミさんに言ってみるさ」

「生き残れたらの話しでしょぉ」

「諦めなければ絶対に生き延びる方法はあるものさ」


 その後も食事をとりながらユウはウォルトに情勢を尋ねていった。そのほとんどが生きた情報ではなかったが、二つほど興味を惹くものがあった。一つはアルベロ教の教義。いわく、


「神は自身の姿に似せて人を創造された。神は彼らを祝福し、こう言われた。生めよ増やせ、人ならざるこの世すべての生き物を治めよ」


 だそうだ。なんだかどこかで見聞きした内容だ。というか、創世記に描かれている事そのままだった。


 帝国はこの教義を拡大解釈して、ヒト属、つまり人間こそが至高という考えの元、多種族を奴隷とする事を正当化しているようだった。そして、この世界の多くのヒト属はその事に疑問を抱いていないらしい。といっても、ウォルトとリリウムは例外のようだった。


 そしてもう一つは、


「さっきの話、どう思う? ほんとに水上拠点なんてあると思う?」

 マリアはこちらを気にせず堂々と服を脱ぎながら言った。今はウォルトにあてがわれた部屋にマリアと二人きりだった。すでにウォルトは寝たようだが、念の為会話を聞かれても問題ないよう日本語で話している。


「見てみない事にはなんとも。ただ、異世界なんていうとんでもないものが実際にあったんだ。俺達以外にもこの地を先に訪れていた者がいないとは限らない」


 ウォルトは話しの中で、密林とこちら側を繋ぐ広大な川のある地点に不思議な浮島があると言っていた。自身で見た事はないそうだが、聞くところによると鉄の城が浮いていたらしい。その事を聞いたユウとマリアはすぐに水上拠点に思い至った。


「あたしらより先にこの世界にきて、そんなおっきな拠点をつくってたなんて、すごい可能性は薄いと思うケド」


「いずれにせよ、明日の目標が出来たんだからいいじゃないか。死体の隠蔽と水上拠点の調査。ジッとしてるよりは身体を動かした方がいい。それはそうと、少しは身体を隠せ」


「お? おねーさんの身体に興味ある感じぃ?」

「何がお姉さんだ。俺とそんな歳変わらないだろう。……やめろ! 半裸で寄ってくるな!」


 月光以外に照らすものがない薄暗い部屋の中を、マリアは上半身裸でにじり寄ってきた。


「暗くて残念だったねえ。灯りがあればあたしのおっぱい見れたのに」

「……絶対その内犯してやる」


「あたしはいつでもウェルカムだよん。なんなら今スるぅ?」

「スる訳ないだろう! マリアこそ頭打っておかしくなってんじゃないのか」


「カモね……真面目な話しすると、明日の保証がない命の危機に曝されて子孫をつくろうとする本能が出てきてるのかなーって」

 深刻そうな雰囲気を作って言っているが、口元が笑っているので台無しだった。


「よく言うよ……命の危機なんていつもの事だろうに。後、笑い隠せてないぞ」

「あらら、バレちゃった。本音は邪魔者がいない今がチャンスって感じぃ?」


「からかうのもいい加減にしろ。もう寝るぞ」

 ユウはさっさと着替え終えるとベッドに入ってしまった。


「もーそんな怒んないでよぉ」

 遅れて、着替えを終えたらしいマリアがベッドに入ってくる。流石に客人に貸すベッドが二つもある訳がなく、シングルサイズを二人で使うしかないのだ。


「……まさかとは思うがマリア下履いてない?」

「うん。あたし寝る時はパンイチだよぉ」


 仰向けになって寝ているユウの脚にマリアのムチムチの太ももが絡みついてくる。不幸な事にウォルトから渡された寝間着は半袖短パンだったので、ダイレクトに肌の感触が伝わってくる。


 一瞬ベッドから出て床で眠ろうかとも思ったが、存外隙間風が酷く、互いの体温で暖を取らなければ凍えてしまいそうだった。当然、掛け布団も粗末な物だったので、このまま我慢する以外の選択肢がなかった。


「……勃っちゃったぁ?」

 甘えるように、それでいてどこかからかうようにマリアは問いかける。扇情的に耳元に吐息を当てるのも忘れない。


「誰のせいだと……」


 大口径砲をぶっ放している印象が強いせいで普段はあまり意識しないが、マリアは抜群の美人だ。165センチという女性としては恵まれた体格に見合った巨乳、そしてムチムチの尻と太もも。それでいて細く折れそうなくびれを持っている。


 戦闘中はまとめられている濡羽色の艶やかなロングヘアが今は解かれダラリと垂れている。彼女の体臭なのか、脳をくすぐる甘ったるい匂いが強烈に漂ってくる。


 そんな暴力的魅力を持つ女性に胸を押し付けられ、脚を絡ませて耳元で囁かれてその気にならない男がいれば見てみたい。


「……シよっか♡」


 自身に背を向けて寝るユウを強引に振り向かせたマリアは、濃厚な口付けをした。


~続き部分の描写に関しましては、近況ノートを御覧ください。~

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