第16話

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サスケ、[ゴン太とユリにもたまには息抜きをさせたほうがいいと思いますが。][また狩猟かな。][そうですね、それが一番だと思います。][ゴンちゃんにユリこっちに来なさい。]ワンワンワン。[猪でも獲りに行くかな。]ワンワンワン。


素早く元気な返事が返ってきた。[今はこの季節だから北でいいのかな。][はい、北の王室狩猟場でよろしいかと思います。][それでは王宮の方で番犬の2匹とこの2匹にタエのところの2匹の6匹でいいのかな。]

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[200kgですとギリギリですが、この犬たちは優秀ですし手に余ったら合気武道で簡単に仕留められますので。]狩猟は志野を除く王様にサスケにすず、それに子供3人組と犬6匹で行くことになった。


ユリとダイにウメそれに子供3人は今回が初陣であるが、日本では禁止されている噛留め猟である。すなわち猟銃を使わずに、狩猟犬による噛留めにより仕留めるようになっている。最後の留めだけ人手による。一般的には首筋の頸動脈をナイフで刺し切って留める。一行は狩猟場についた。


前に王宮にいたニューファンドランド犬とチェサピークベイレトリバーのMix2匹が出迎えてやってきた。王宮内の滝や川があるところで水回りの番をさせていたのだが、広い湖や川のあるこちらの方が適当と判断し移したのである。体形はニューファンドランド犬で毛並みはベイレトリバーなので暑さに対する改良がなされている。

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狩猟に出る6匹の犬には厚いナイロン地と皮革で作った、胸と肩を守るプロテクターを装着した。これがないと猪の牙で突き上げられたときに、大けがをしてしまうのである。6匹の前で王様が訓示をたれている。[いいかリーダーはゴン太だ。ゴン太の指示に従うように。


それと大けがをしても超能力ですぐに元に戻すことができるから思い切って行っていいぞ。]犬の目がだんだん吊り上がってきて、鋭くなっている。やる気満々である。[ダイちゃんにウメ、いい~、頭を使って思い切り行くのよ相手はとてもパワフルで強いので、まともだとすぐにやられちゃうからね。わかった?]ワンワンワン。


[親分、犬達の顔がみんな怖くなっていますね。][怖いジョー。]この王室の狩猟場は1,000万坪の広大な敷地に、湖と川が流れ渡り鳥の飛来地になっており鶴や白鳥に雁、鴨が狩猟の対象になっている。また、ここは紅鮭の春先と白鮭の秋の2回の遡上があるので釣りの対象にもなっているのである。

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トラックの荷台に6匹が積まれている。普通はケースに入れて運ばれるのだが、この犬達には全く必要ない。サスケが運転して獲物を探しているがなかなか巡り合わない。川の両サイド5km程は平地で植栽も少なく見通しはよい。双眼鏡を覗いていたすずが、どうやら見つけたようである。でも100㎏と予定より小さいのでパスすることにした。


あくまで対象は200㎏の巨大猪である。と、ゴン太が鋭く一鳴きした。慌ててすずがゴンタの目先を確認すると巨大な猪が悠然と餌をあさっている。サスケ、[ちょっとデカ過ぎるな。ゴンちゃんどうするやるか?]ワンワンワン。どうやら取り掛かるようである。目標の50m手前で車を止めたが、猪は全く気にせずに餌を相変わらずに食べている。


王様、[いいか私の周囲10mにバリアーを張って、猪の横や後ろからの攻撃を防ぐようにしてあります。ここから出てしまうと危険なので注意をするように。]

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トラックから降りた犬達はサスケとともに前に出ていった。王様達は25m手前で停止している。目標20mで犬が放たれた。ゴン太の指示で3方から攻撃するようである。みるみる距離が詰まっていく、それぞれが5mに切迫した時、猪は前足で地面をけり吠えながら威嚇を始めた。


と、その時ゴン太が猪の前面3mまで近づいて吠え出して注意を引いている。猪は興奮してブヒブヒ鳴いている。他の2方面からダイと番犬のオスがすきを窺って首筋の急所を狙っている。まずダイが勢いよく飛びかかっていってそのあと番犬のオスも同じように突っこんでいったが、いずれもキバですくい上げられ3mほど飛ばされて地面に叩きつけられてしまった。


かなり上に舞い上がってしまったのでダメージがあるのか、2匹ともピクリともしない。番犬のメスとウメが気合を入れてミサイルのように飛んでそれぞれが首筋に噛みつくことができたが、まだ全然効いてないようだ。

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そのうちにウメは振りほどかされて同じく牙ですくい上げられて、2m飛ばされてのびてしまったのか動いていない。[親分、やばいですよ~。][やられてるジョー。]王様、[大丈夫、目が死んでいないまだやる気だ。]


番犬のメスが粘って離さないのでゴン太にユリが回り込んで、反対の首筋に噛みつくことに2匹とも成功した。3匹が噛みついたまま粘っている。もう15分ほどが経って猪も犬も疲れが出てきたようである。と、その時に飛ばされていた番犬のオスが回復し、番犬のメスが噛みついているそばに同じように噛みついた。


サスケ、[よし、4匹が粘っている。あとはダイとウメだ。]ダイとウメはヨタヨタしているが起き上がったが。ヨレヨレになっていても闘志はまだあるようだ。ダイは正面から近づいていき、職人町のドーベルマンと格闘した時のようにピンポイントのタイミングで鼻をかじり、なんと噛み取ってしまった。血がパーッと噴き出てあたり一面に広がった。

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しかしこれだけでは終わらなかった。ウメは暴れて危険な猪の顔面の下にもぐり込み、なんと最大の急所の喉笛に噛みついてしまったのである。断末魔が近づいて勝負ありである。[サスケさん、そろそろお願いしますよ。][わかりました。]合気武道であっという間に首をねじり折ってしまった。即死である。


サスケと王様が犬達をわけに行った。勝利の雄たけびを、ウォーン・ウォーン・ウォーンと全身返り血を浴びて真っ赤になりながら繰り返している。[よし!よくやったな。肉がたっぷり食えるぞ。]ワンワンワンワン。犬達の、嬉しい気持ちが強く伝わってきた。[親分、ダイとウメはよくやりましたね。][みんな頑張ったわ、チームワークの勝利ね。][よくやったジョー。]


王宮から調理人が来ているので猪を瞬間移動で送った。230kgは持ち上がらないのである。しかし、ダイの両親である番犬も息子の成長がうれしいのか、ダイを2匹でしきりになめている。

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[さて引き上げだ、いくぞ。]犬達は素早く飛び乗った。解体場に行くと手際よくすでに解体されていた。犬が噛んだ傷跡のある部位はここの狩猟場にいる犬達の餌とした。傷跡のある所は味が変わってしまっているので、人間は普通食さない。食べる分とここにやる分のほかは王室の冷蔵庫行きである。]


[親分、今日は牡丹鍋ですか。][新鮮なモツがあるから鍋はモツで身はステーキかな。みそ味のモツは抜群にうまいわ。][モツがいいジョー]。

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