#50 気付きにくい棘の痛み
今日から土日の二日間、森山くんのお家で勉強会。
昨日の夜、ハルコちゃんの提案で急遽決まったお泊りだけど、初のお泊り会に興奮が抑えきれない私は、朝早く目が覚め、結局今回も早めに家を出て森山くんのお家に向かった。
一応、みんな寝てると悪いと思い、森山くんのお母さんとハルコちゃんには「7時前にお邪魔します。朝からすみません」とメッセージを送っておいた。
そのお陰か、到着してお庭のドズルくんと挨拶していたら、直ぐにお母さんが「ヒメカちゃん、いらっしゃい♪」と出てきてくれた。
「おはようございます!朝早くからすみません!」
「おはようございます♪ 気にしなくていいからね! ほら寒かったでしょ、あがってあがって」
いつもの様に玄関からそーっと「お邪魔します」と上がらせてもらう。
お母さんは小声で
「朝ご飯用意してあるから、イチロー起こして二人で先に食べちゃってね。 あ、今日もイチローに抱き着いてもいいわよ♪」
「また怒られちゃうんで、止めておきます」
起きている時は、遠慮しませんが。
「え~残念!」
お母さんは相変わらず朝からノリノリ。
森山くんのお部屋では、充満する森山くんの匂いに脳を刺激されつつ、興奮を何とか押さえて今回は冷静に森山くんを起こす。
しかし、神経質で理屈っぽくて疑り深い普段と違って、寝ぼけている森山くんがぼーっとしてて、それがまた凄く可愛くて・・・
母性本能を刺激された私は、まるで子供を世話するお母さんの様に森山くんのお着換えを手伝い、そして更に興奮。
あー抱き着いて胸に顔を埋めたい!
いっそのこと一緒にお布団入って2度寝でも!
いえ、慌てるな、ヒメカ
今日からの二日間、まだ始まったばかり! 先は長い!
ココで焦ってやり過ぎてしまうと、全てが台無しになる。
そう言い聞かせて、なんとか気持ちを抑える。
ムフームフー
その後は、お母さんが用意してくれた朝食を頂いた後、まだ寝ぼけている森山くんを連れてドズルくんの散歩へ。
森山くんと二人で居ると最近の嫉妬による焦りとか、嘘の様に忘れられる。
朝から気持ちが良い散歩道を、森山くんと手を繋いで歩く。
あぁ、幸せだなぁ
小学校に到着して、私が日課の柔軟体操をしていると、森山くんが急に『僕に空手の型を教えて下さい』と。
不意打ちのその言葉が、凄く嬉しかった。
私は空手が好きだけど、コンプレックスでもあった。
周りから”女のくせに”とか”暴力女”って思われているんじゃないかって。
だからこそ、身嗜みや言葉遣いには人一倍気を使って女性らしく振舞って来た。
そんな私を見て、森山くんが空手に興味を持ってくれたこと。
しかも私から教わりたいと言ってくれたこと。
こんなに嬉しいことがあるのだろうか
私のことを”空手家 漆原ヒメカ”としてちゃんと見てくれている。
しかもバカにしたり怖がったりせずに、いつもの優しい笑顔で『教えて欲しい』って言ってくれた。
もう森山くんに対して、ただの恋愛感情では済まない様な気持ちが湧き上がる。
尊敬?
愛慕?
礼讃?
崇拝?
それが何なのか今の自分では解らないけど、ただ大切な気持ちだというのは解る。
しかし、私のこの盲信は、最近の嫉妬や焦り、そして二人で過ごす時間の喜びで自分を見失いがちな私の心に、まるで棘がチクリと刺さる様に小さな傷も作っていた。
その傷は小さな綻びで、それに気付くのにそう時間は掛からなかった。
◇◆◇
森山くんのお家に戻ると、森山くんのお部屋にコタツを用意して、ちょっぴりコタツでいちゃいちゃしてから、早速勉強を開始した。
勉強の間は、いつもの様に協力しながら集中して進められた。
お互い、解らないところが有れば、質問したり意見を出し合ったりして、二人で協力して勉強すると本当に捗る。
また勉強中は、集中して脳みそを使っているせいか休憩の度に疲れを感じ、癒しを求めて森山くんにハグをおねだり。
それに今日は押して押して押し切るつもりだからね、軽くジャブを繰り出しておかないと。
勉強は、お昼の食事を挟んで夕方まで続けた。
本番は夜。
私はココで勝負に出ようと考えている。
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