#49 ドキドキするコタツの季節


 家に帰るとドズルに水をあげて、庭からリビングに顔を出す。


 リビングにはハルコや父さんも起きていて、漆原さんは二人に「おはようございます。今日もお邪魔してます」と挨拶していた。


 そして二人とも、土曜のこんな早い時間から漆原さんが居ることに何も疑問を持っていない様で、普通に「おはようございます」とか返してる。



 家に上がると母さんから

「イチロー、ヒメカちゃんとお部屋でお勉強するならコタツ出したら?」


『うん、そうするよ。 漆原さん、僕の部屋に今あるテーブルを片付けますね』


「あ、私も手伝います!」


『じゃあ、お願いします』



 部屋に戻ると、暖房を入れてから上着を脱いで、二人でテーブルを部屋の隅に立てかける。


 物置部屋から一人でコタツを運ぶと、同じタイミングで母さんがコタツ布団を持ってきてくれたので、部屋の中央に置いてフキンでテーブルを拭いて準備完了。



『飲み物持ってきますので、漆原さんは先に始めていてください。 コーヒーでいいですか?』


「はい、お願いします」



 台所へ行き、コーヒーを煎れてスナック菓子を皿に開けて、お盆に乗せて部屋に戻る。



 漆原さんは早速コタツに入り、英語の教科書ノートを広げていた。


「あ、お帰りなさい」


『ただいまです。 今日は英語からですか?』


 そう受け答えしながらお盆を勉強机に置いて、漆原さんのコーヒーを邪魔にならない所に置いて、自分の分も離れた所に置く。


『じゃあ、僕も英語から』


 英語の教科書とノート、筆記用具を持って、漆原さんの対面側に座ろうとすると


「森山くん、私の横へどうぞ!」と言って、コタツ布団をペロリと捲る。


『え? 僕までそっち行ったら狭いじゃないですか』


 漆原さんは、コタツの4面ある内の1面に二人で座ろうと言っているのだ。

 誰がどう見ても狭いし、わざわざ他の3面を使用しない理由が解からない。


「狭くてもくっ付けば入れますし、その方が勉強教えて貰いやすいでしょ?」


『・・・・・』


 これはあれだ、非常階段と同じ論理だ。

 漆原さんにとって、勉強し易いかし辛いかじゃないんだ。

 僕を横に座らせないと気が済まないたちなんだね。


「ほら、どうぞ?」



 言われるがまま、漆原さんの左隣に入る。

 コタツは長方形で幅が広い面に座っているとは言え、どうしても脚や体は密着する。 そして、毎度のことながら顔も近い。


 漆原さん、相変わらずまつ毛長いなぁ


「うふふふ、いつも手を繋いだりハグしたりしてるけど、コタツだとまたちょっと違う感じがしますね」


 そう、スキンシップに慣れたとは言え、今日は妙にドキドキする。

 先ほど一緒に空手の型を練習していた時の恰好良かった漆原さんの佇まいを思い出す。

 だからだろうか、ドキドキするのは。



『そういえば、まだ小さい頃、ハルコもこうやって僕の隣に入りたがって、二人で窮屈にしながらゲームとかやりましたね』


「へぇ、いいなハルコちゃん! 私も子供の頃、森山くんと一緒にコタツでゲームしたかったなぁ」


『じゃあ、後で休憩時間にでも』


「あ、ゲームするより、こっちのがイイ!」


 そういって、狭いのにおもいっきり抱き着いて来る。


「ふぅ♡ 森山くん、あったかい♡」



 なるほど、僕がゲームで遊ぶのと同じ感じで、漆原さんも僕で遊ぶということか。


 漆原さん程の女性に遊ばれるのは、嬉しいような気恥しいような。

 しかし


『漆原さん、勉強しますよ。僕で遊んでる場合じゃないです。 月曜からテストなんですからね』


「えー、もうちょっとだけ!」ムフームフー




 その後、10分程で解放されると漸く勉強が始まった。


 しかし、休憩の度に漆原さんは僕に抱き着いて「ムフームフー」と鼻息を荒くして、ちょっと怖かった。





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