#43 千里の馬は常に有れども伯楽は常には有らず


 テストが終わり、学校での通常授業が再開されると同時に、生徒会の活動も再開した。



 木曜日放課後、森山くんにとっては2度目の参加になったこの日、生徒会メンバーは森山くんの凄さの片鱗を見ることになった。





 最初は私の補助として、集まった各部活動の予算申請書の仕分けをして、ノートPCで表計算への入力をしてくれていた。 私一人でやっていると何日も手を取られる中々厄介な業務だった。



『漆原さん、この表計算ですが、ずっとコレでやっていたんですか?』


「そうですね。 たぶん何年か前の先輩が作成した物をずっと使っているんだと思います」


『そうですか・・・これいじってもいいです? 入力し辛いですし、分類分けとかもどうも判り難いんですよね。それにコレって決済する時に見るだけのただの資料ですよね。どうせならゴニョゴニョ・・・』


「えーっと・・・」


 すると私たちの会話を聞いていたのか、生徒会長の中山さんが

「構わないよ。 ただ、念のために元のファイルとは別にして貰えるかな?」


『了解しました。 漆原さん、少し入力作業中断しますね』


 森山くんはそう言うと、黙ってPCに向かって作業を始めた。



 30分ほどすると

『漆原さん、終わりました。 確認して貰えますか?』


「あ、はい」


 森山くんは、各部活動の予算申請状況、過去の各部の実績、本年の活動実績や大会等の参加見通しを指数に直して算出した適正な必要予算額等etcを一つの表にまとめた物を作成していた。


『こちらのシートに入力用の表を用意したので、報告用のシートには直接入力しないようにして下さい』


 森山くんの説明を聞いて、会長の中山先輩も様子を見に来た。


「この活動状況を指数にしてるの、指数化の具体的な根拠とかは?」


『大会やコンクールに参加する場合、マイクロバスのレンタル代や公共機関での交通費等移動費や食事や備品等の雑費が掛かりますので、それを指数化しました。具体的には、大会の規模に応じて移動距離が長くなるという前提にしまして、あとは所属部員の人数も加味出来るようにしています。 各部の所属部員の人数は、コチラのシートに既に入力してありますので、あとはこちらの目安表に応じて参加実績のある大会や見通しの大会を数値でコチラに入力すれば、各部に対して平等な評価での適正予算を算出出来るようにしました。 ただ、ここにある手元の資料だけで判断しましたので、もっと精度を上げようと思うのでしたら、過去5年程の実績も加味した指数の見直しが必要かとは思います』


「なるほど・・・漆原さん、今の説明聞いてどう思った?」


「そうですね・・・適正予算の算出が、森山くんの言う通りに簡単に出せるのでしたら、申請書もそれに合わせた内容を見直して・・・今までやっていた文章による活動内容の査定とか不要になりますね・・・少なくとも申請する側も審査する生徒会としても負荷は確実に減らせるかと思います」


「そうだね。僕も同じことを考えたよ。 よし、森山くん。 君の作ってくれた物をそのままプロトタイプとして使ってみよう。 使っていくうちに色々と問題点とか改良点とかも出てくるだろうけど、その都度またいじればいいから。まずはこのまま本年度分のデータを纏めてくれるかい?」


『分かりました。 ですが、既に受領済の申請分は入力が終わってます。 あとは報告用のシートをプリントアウトして会長の審査と顧問の先生の承認を頂くだけです』


「・・・・・」


 気が付いたら、生徒会メンバーみんな黙って森山くんを注目していた。


 それに気づいた森山くんは


『ご、ごごごめんなさい!出しゃばり過ぎました! やはりエリートの集まる生徒会!想像以上にアウェー感半端ない!!! そうですよね!長年使ってきてた方のが慣れ親しんでますもんね! 愛着あったのに僕みたいなパっと出のモブが何生意気に語ってんだよ!って話ですよね! 直ぐに消去します! こんな物は即デリートですよ!』


 そう言ってマウスを掴んで削除しようとしている森山くんを、慌てて後ろから羽交い絞めにした。


「ダメ!早まっちゃダメ! 誰も生意気だなんて思ってないよ! みんな森山くんが仕事早くてビックリしてるだけだから!」


『ぐおぉぉ!止めないで下さい漆原さん!!! 空気読めないお節介!今身に染みて猛省してるんです! 鳳雛先生と同じ過ちを繰り返すところでしたぁぁぁ!』



 3人掛かりでようやくPCから引きはがした。

 私、これでも空手の有段者なんだけどな・・・森山くんの馬鹿力、一人じゃ押さえられなかったよ・・・






 ◇◆◇






 今、森山くんは落ち着きを取り戻して、私が煎れたお茶を大人しく飲んでいる。


 いい意味でも悪い意味でも、素の森山くんの凄さの片鱗を見た。


 中学の時の森山くん、こんな感じだったのかな。




 私は森山くんの隣に座り、語り掛ける。


「森山くんのお陰で今日は早く帰れそうだよ。 今日も一緒に帰ろうね」


『分かりました。今日も一緒に帰りましょう。 それにしても漆原さんの煎れてくれたお茶は本当に美味しいです。 お茶の才能まであるとは、湯の温度ですか?それとも蒸す時間ですか?どうすればこんなに美味しくお茶が煎れられるのやら。 漆原さんはどこまでも末恐ろしい方です』


 いや、末恐ろしいのは森山くんの方でしょ!

 と言いたかったけど、また興奮しだしたら面倒なので、グっと堪えた。




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