#42 森山家の団欒



 翌日日曜日にも漆原さんは僕の家にやってきた。二人でテスト勉強をする為だ。



 この日も早くやってきて、まだ寝ていた僕に抱き着く、ことなく普通に起こしてくれた。


 起きて時計を見ると、7時半だった。

 約束は9時にも関わらず。



 遠慮は不要、とはこのことか・・・


 昨日、一心同体・運命共同体という話をしていた為に『早すぎる』とは抗議できず、ごそごそと着替え始める。



 着替え始めても漆原さんは部屋から出て行ってくれず、僕に背中を向けながらも耳まで真っ赤にしてチラチラとコチラを気にしていた。



 恥ずかしいのか気になるのか、どちらかハッキリして欲しい物だ。



『異性の裸が気になるなんて、現代の聖女である漆原さんも普通の年頃の女の子なんですね。そんなに気になるのなら僕は見られても構いませんよ。 遠慮は不要なんですよね』


「き!ききき気になってなんかいません! でも仕方ああありませんね! そんなにみみみ見てほほほ欲しいのなら?少しくらい見てあげますよ! 仕方なくですからね!」


 ツンデレっぽいことを言いながら漆原さんは僕の方へ体ごと向け、僕の体を見つめる。 何故か正座だ。



 漆原さんは、恐る恐るといった感じで僕の胸に手を伸ばす。


『漆原さん、お触りまでは許可してませんよ。 それに目が血走り過ぎです。怖いです』


「ひゃい!」ビクッ



 学園のアイドルであり人気者の漆原さんは恋人の一人や二人居てもおかしくないと思っていたけど、異性の裸は慣れていないのか刺激が強かったようで、物凄く挙動不審だった。



『はいお終い!』と言って、部屋着を着こむ。


「あぁーん・・・」と残念そうな漆原さん。



 僕、わかったよ。

 スキンシップとか積極的だし、男性の裸に興味深々。

 この人、むっつり助平だ。






 ◇◆◇






 漆原さんは昨日ウチの母さんに「どうせ朝早くから来るなら、朝食はウチで一緒に食べましょう」と言われていた為、この日は一緒に朝食を食べる。



 食卓で家族4人に漆原さんが混ざっている。

 そして恐ろしいほどまでに、違和感が無い。

 皆同じらしく、当たり前の様に食べながらお喋りしている。


 一心同体

 なるほど、こういう事かもしれない。




「森山くん、あーん♪」


『あーん』


 モグモグ


「あらあら、うふふふ」


「お、お、お兄ちゃんたち! いつもそんな風に食べてるの!?」


『そうだね。 漆原さんがお弁当作ってくれた時は、だいたいあーんするね』


「えへへへ」


『そういえば、昨日までウチでお昼とか夕飯を食べる時はしてなかったかも?』


「えっとね、昨日二人で話し合って、お互い遠慮や他人行儀なのは無くそうってことになったのね。だから今日からだよね? うふふふ」


「っていうか、そういうのって恋人同士がする話じゃないんですか??? 二人ともいつの間にかお付き合いしてたんですか???」


「こ、恋人!」デヘヘ♡


『何言ってるのハルコ。 お兄ちゃんと漆原さんが恋人の訳ないでしょ。 漆原さんは聖女様だから僕の様な下民でも分け隔てなく友達になってくれてるんだよ? それくらいハルコでも分かるでしょ。 漆原さんも、ハイあーん』


「は?何言ってるんですかお兄ちゃん、バカなの?」


『ば、バカとはちょっと失礼じゃないかな!?』


「だってバカなこと言ってるからバカって言ったんだし!」


『いや、至極当たり前のことを言ってるだけだし!バカなこと言ってるのはハルコの方だし!』


「ま、まって!二人とも私の為にケンカをするのは止めて!」



『・・・この場面でそのセリフは・・・微妙かと』


「うん、ヒメカさんって結構ロマンチストですよね」


『うん、あとたまにポンコツ』


「それと、凄くチョロい時ありますよね」


『うん、あと初心でむっつり』


「いつもの正義感が強くて頼りになるお姉さんなヒメカさんと、ロマンチストでポンコツで初心でむっつりなヒメカさん・・・ギャップ萌え?」


『なるほど・・・』


「ふ、二人とも言いたい放題!?」


「あらあら、3人とも相変わらず仲良しなのね、うふふふ」




 自分で遠慮や他人行儀は不要と言っていたのに、いざ自分がそういう扱いをされると凹んでしまった漆原さんは


「親しき仲にも礼儀は必要です!」と言いだしたので


『連日のように約束の1時間以上前に来るのも礼儀としてどうなんですか!』と言い返したら


「そ、それは良いんです! 森山くんの寝顔を見る為に早く来てるんですから!」と自爆した。





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