#38 反省とアドバイス
生徒会のお手伝い初日(木曜日)、漆原さんを自宅へ送り届けて帰ってから、今日の漆原さんのことを考える。
因みに生徒会のことで遅くなることが分かっていたので、ドズルの散歩は事前に母さんにお願いしてあった。
今日、漆原さんが泣くところを初めて見た。
学校ではいつも凛々しくてしっかり者で、みんなに頼られる学園のアイドル。
僕と二人の時は、いつもニコニコ楽しそうで、たまに怒ったりテレたり甘えたり。
そんな漆原さんが、まさか泣き出すとは思いもしなかった。
僕がちょっと揶揄われる様なことを言われて怒ってくれて、その後も機嫌が悪そうに感じてはいたけど、それ程までに悔しい思いをしていたことに気が付けなかった。
その時は激しく動揺してしまい、冷静に考えられなかったけど、今なら解る。
今日、漆原さんが泣いた原因は、全て僕にある。
僕が中学時代に他人との関わりを拒絶していた事で、当時の後輩だった工藤くんが当時の噂話から、僕を揶揄うような発言をした。
更にその場で僕がハッキリと否定するなり怒るなりしていれば、漆原さんが怒るような事態にはならなかったはず。
そして、その後の漆原さんの様子に気が付いていながら、フォローなり気遣いなり出来ていれば、漆原さんが泣くほど自分自身を追い詰めるようなことにもならなかっただろう。
その全てが、僕が逃げ続けたことで招いてしまった結果だった。
漆原さんの前では逃げたくないと思っていたのに、本当に情けない。
漆原さんの友達として、これからも漆原さんの傍に居ようと思うなら、今の自分のままではダメだ。
漆原さんに心配をかけてばかりで、沢山負担もかけ続けてしまう。
中学時代からのいじけた心を改めて、これからの自分の学校生活を考え直す必要があることに、漆原さんの涙でようやく気が付くことが出来た。
とは言え、どうすれば良いんだろう。
どうしても、あの言葉が頭に浮かんでしまう。
”親切の押し売り”
”空気読めないお節介”
僕が進んで何かをしようとすると、誰かに迷惑をかけてしまう恐れがある。
漆原さんや僕の家族はそんなことを思わないで居てくれると、今なら解る。
でも、それ以外の人たちは、迷惑だって思われるんじゃないかってやっぱり怖くなる。
う~ん・・・
あ
こうやって自分一人で考えて行動するから、いつも失敗してしまうのでは?
誰かに相談すれば、僕よりもマシな考えを示してくれるかもしれない。
1番に相談相手として思い浮かぶのは、漆原さん。
現世の聖女様である漆原さんなら、きっと嫌な顔をせずに僕の相談事を聞いてくれるだろう。
でも、この件に関しては、これ以上漆原さんに負担をかけたくは無い。
となると、次に浮かぶ相談相手は、ハルコ。
ハルコは、若干厨二病を拗らせ気味だけど、いつも冷静だし頭も良い子だ。
それに何かとお節介で、兄である僕のこともいつも気にかけてくれる。
更には、漆原さんとも仲良くて、僕と漆原さんの友達付き合いも間近に見てきているし。
ハルコほどの相談相手に適任者は居ないだろう。
早速ハルコの部屋を訪ねる。
ノックせずに扉をバーンと開け放つと、ハルコは机に向かって勉強をしていた。
「ノックぐらいしてよ! 私にだってプライバシー的なアレとかソレとかあるんですからね!」
『勉強してるところ悪い。 ちょっと相談したいことがあって』
「えええええ!?お兄ちゃんから相談ごとなんて珍しい!」
『うん。 ハルコしか相談相手が居ないというか、ハルコが一番相談相手に適任というか、お願い』
「うーん、分かった。 それでどういった相談なの? ヒメカさんのこと?」
『ちょっと違うかな。 どちらかと言うと、お兄ちゃん自身のこと。色々反省することがあって、それでこれからどうすれば良いのか悩んでてね』
「具体的には、何があったの?」
『今日学校で、漆原さんが泣いてた。 最近一緒に居ること多いけど初めてのことで、それが自分が原因で、すぐ逃げようとする自分が原因だって判って、そういうのもう辞めたいんだけど、でもどうすれば良いのか分からなくてさ』
「ヒメカさん、泣いたの? ちょっと想像つかないね・・・正義感の強いヒメカさんのことだから、よっぽど悔しいことでもあったの?」
『うん、そうみたい・・・漆原さんに誘われて生徒会のお手伝いすることになったんだけどね。お兄ちゃんが生徒会の後輩の子にちょっと揶揄われて、そしたら漆原さんが凄い怒ってくれて、それで後で他の先輩と3人で話してたら「悔しい」って泣き出しちゃって』
「多分ヒメカさんは、自分が誘ったからお兄ちゃんが揶揄われたって責任を感じたんだろうね。それでそうなることを未然に防げなかったことも悔しかったんだと思う」
『うん、お兄ちゃんもそう思う。 だから僕が最初から逃げたりせずに、その後輩に強く言い返したり、漆原さんのことを気遣ったり出来てれば、泣かせるようなことにはならなかったと思うんだ』
「まぁ、そうですね。 お兄ちゃんがもっとしっかりしてて、毅然とした態度でいたら、そうはならなかっただろうね」
『それでね、これからは自分を改めようと思うんだけど、やっぱり怖くてね・・・情けないけど、漆原さんやハルコ達以外の人の前だと、どうしても萎縮しちゃってさ』
「それって中学の時にカスミちゃんに言われたことが気になって?」
『やっぱり、カスミに何か聞いてるの?』
「うん、少しだけどね」
『そっか』
「でも! 私はそうは思わないよ! お兄ちゃんはお人好しだけど、絶対に悪い人間じゃないよ! ヒメカさんもそう言ってたんだよ」
『そうか・・・ヒメカさんも知ってるんだね、僕の中学のこと』
「ごめん、私が話した。 でも、ヒメカさんはお兄ちゃんの事、絶対にバカにしたりしない人だよ」
『うん、それは分かってる。 でも、それに甘えすぎたとも思う』
「だったら、もう一度、昔みたいに積極的に人付き合いしたら? これ以上ヒメカさんに甘えるのやめようと思うなら」
『それが怖いんだよね・・・』
「じゃあ・・・自分から行かなくてもいいけど、相手から来ることを拒むの止めたら? 自分から距離を縮める必要は無いけど、近づいて来た時に壁を作らないように」
『なるほど・・・それなら押しつけがましくもお節介にもならないか・・・。 よし決めた!そうするよ。相談乗ってくれてありがとうね!』
「どういたしまして。 それと、ヒメカさんには自分から積極的に気を使ってあげてね。 ヒメカさんだってその方が嬉しいに決まってるからね」
『漆原さんか・・・了解。相談乗ってくれてありがとうな。 あと今週の週末も漆原さん勉強会しに来たいって言ってたから、また来ると思うから、よろしくね』
「あ! それは遠慮しとく。 今度はお兄ちゃんとヒメカさんの二人で勉強会しなよ」
『むむ、ハルコがそういうのなら、そうするよ』
「じゃあおやすみね」
我が妹ながら、頼りになる。
相談して正解だった。
お陰で明日からの自分の方向性を決めることが出来た。
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