#37 覚醒の兆し



 森山くんが生徒会を手伝ってくれるようになってから、森山くんの様子が変わった。



 まず最初に驚いたのは、森山くんが生徒会デビューした翌日金曜日の朝、教室で森山くんから挨拶してくれたんです!



 私が友達と雑談してて、森山くんが教室に入ってくるのが見えたから、コッチ見てくれるかな?って思って視線を向けてたら、気が付いてくれて目が合ったから、いつもの様に笑顔でアイコンタクトの挨拶したら、森山くんがそのまま私のところまで来て


『おはようございます、漆原さん』


 たった一言だけの挨拶だったけど、わたしびっくりしちゃって

「おおおおはようござります、もりやまきゅん」って、またかんじゃって


 でも、森山くんはにっこり笑顔向けてくれて、そのまま自分の席に行っちゃって、私たちのやりとり見てた周りの子たちはザワザワしてたけど、森山くんは全然気にしてない感じで。


 今までの森山くんだったら、教室で周りに人居たら絶対自分からは話しかけてくれなかったし、教室でにっこり笑顔を見せてくれたことも無かったし、周りに注目されたら教室から出てちゃってたし、兎に角いつもと違うというか、わたしと二人きりの時と同じような振舞を教室でもするようになったみたいだった。



 それで、いつも以上に森山くんのことが気になって、すぐにメールで「大丈夫?無理してない?」って送ったら、すぐに『大丈夫ですよ。 気を使わせてしまってすみません』って返事くれて、森山くんの方見たら、またにっこり微笑んでくれて、その笑顔がまた素敵で、教室なのにわたしキュンキュンしちゃって顔が熱くなるし、友達には「ヒメカちゃん、熱あるの?」とか心配されるしで、わたしの方が動揺しちゃう始末。



 それでこの日はお昼一緒に食べる約束してなかったけど、非常階段に押しかけてどうしたのか尋ねたら


『昨日の生徒会の出来事で、僕が漆原さんに如何に普段から気を使わせていたのかが良く判りまして、反省してこれからは態度を改めようかと考えてます』


「本当に大丈夫です? 無理してるのなら私のことは気にしないで下さいよ?」


『そうやっていつも気を使って頂いて、本当にありがとうございます。 僕はずっと逃げてばかりで、漆原さんだけじゃなくてハルコやドズルにも心配ばかりかけてしまって。 折角生徒会のお手伝いという機会を頂いたので、これを機に学校での自分も少しでも変えられればと思います』


 そう話す森山くんのハニ噛んだ表情が、今まで見てきた森山くんの中でも一番って言ってもいいほど輝いて見えて、わたしも自分の胸が一気に押し寄せるように高まるのを感じて、思わず



「好き・・・」



『ん? このナゲットですか? じゃあ交換しましょうか。 僕も先ほどからそのミニハンバーグが気になってまして』


 森山くんはそう言うと、自分のお弁当からナゲットを1つ箸で取り、一瞬何か考えるように止まった後、ナゲットを私の方へ向けて


『あーん』と言った。



 先ほどからの胸の高鳴りと、好きと思わず言ってしまった羞恥心と、でも伝わっていない残念さと安堵と、目の前で楽しそうな笑顔で『あーん』と言われた喜びで、ぐわんぐわんと目が回りそうな程動揺しながらも、ほとんど無意識に「あーん」と口を開けていた。



 森山くんのナゲットを咀嚼していると、鼻からつーんと垂れてきた。

 鼻水だと思ってティッシュを取り出そうとすると


『う、ううう漆原さん! 鼻から血が!? 何てことだ!聖女様が流血!? 聖なる血が流れてしまうとはなんて恐れ多い! ティッシュティッシュ・・・あ、コレ使って下さい!』


 色々気持ちが昂り過ぎて、鼻血でちゃった。


 いつもの様に大騒ぎしながら森山くんはポケットからティッシュを取り出し、渡してくれた。


『大丈夫ですか!? ま、まさか僕のナゲットに猛毒でも!? 僕にキアリーが使えれば! い、いいい今すぐ救急車呼びます! あ!クソ!手が震えて番号押せないぞ!クソ!』


「森山くん! 救急車ダメ!」


『で、でも何かあってからでは、ママさんに顔向け出来ないです!』


「タダの鼻血ですから!!! 落ち着いて下さい!」


『せ、せめて保健室に! 今すぐ行きましょう!さぁ!』


「だから保険室にも行かなくて大丈夫です! 空手やってたら鼻血なんて日常茶飯事なんです! 落ち着いて下さい! そうだ!ハンバーグ食べるんですよね! ほら、あーんして下さい!」


 森山くんが慌てると、自然と自分は落ち着けて冷静になれた。


『そ、そうなんですか・・・』あーん


 お口にハンバーグを入れてあげると、森山くんはモグモグさせて、でも唇にハンバーグのケチャップが付いていた。



 森山くんから受け取ったティッシュを1枚取って「じっとしてて下さいね」と言って、唇のケチャップを拭う。


 大人しくモグモグさせながら私に唇を拭われる森山くん。


「もう大丈夫です。綺麗になりました」


『ありがとうございます。 それにしても、このハンバーグ、素晴らしいです。 牛肉100%ですか? 焼き加減、ジューシーさ、そして噛み応え。どれも絶妙でウチのハンバーグとは大違いです。 流石漆原さん』


 ようやく落ち着いてくれて、いつもの森山くんに戻ってくれた。



「あの・・・言い難いんですが・・・今日のお弁当はママに作って貰ったので、私じゃないんです・・・」しゅん


『こ、これは失礼しました! あ、でも流石ママさんですね。 ママさんも漆原さんに負けず劣らず料理上手とは、流石超美人マダム、侮りがたし』


 む、今度はママをホメだした。


「今度は私がハンバーグ作って来ますから!」


『え?どうして急に? ハンバーグ僕が食べちゃったからですか? ぐぬぬ、ならもう1つナゲットを差し上げます・・・漆原さんって結構食いしん坊さんですよね』


「ち、違います! もういいです! 森山くんのいじわる!」プイッ



 教室での様子が変わった森山くんは二人きりの時も今までよりも少しだけ距離が近くなった様に感じて、思わず「好き」って告白しちゃって、でも上手く伝わらなくて残念だったけど安心もしちゃって、お陰で却って素の森山くんを色々見ることができて、それがとても嬉しくて、楽しい時間だった。




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