#36 ヒメカの悔し涙
3人で自販機の所に行って、パックのジュースを買いベンチに座ると、咲田先輩が話し始めた。
「森山くん、助っ人に来てくれてありがとうね。本当に助かります」
『いえ、漆原さんが折角三顧の礼をもって誘ってくださったので、滅私奉公お役に立てるよう頑張ります』
「うふふ、二人は仲が良いのね。 でも意外だったわよ、ヒメカちゃんが男の子連れてくるんだもん。 多分、他のみんなもそれで動揺してて、ちょっと可笑しな空気になっちゃったんだと思う。 それにしてもヒメカちゃんが怒る姿、初めて見たよ」
「わたしは・・・森山くんは大切なお友達なんです。 今回、私が無理言って手伝って貰えることになって、本当は一緒に楽しく生徒会の仕事が出来ると思ってたんです。 なのにいきなり森山くんを侮辱するようなことになるなんて思ってなくて、もう・・・もう、ほんとに、悔しくて自分が情けなくて・・・・ううう」
うえええ!!!
漆原さんが泣きだしちゃったよ!?
どうしよどうしよ
『あああああの!漆原さん! ぼぼぼぼくは侮辱されただなんて思ってませんので!こんな事で責任感じないで下さい! なか泣かないで下さい!』
どうしていいか分からず、パックのジュース持ったままオロオロしてたら、ストローからジュース噴き出して、更に慌てた。
『うお!こんなところにトラップが!』
『そ、そうだ!ハンカチ! 漆原さん!こ、これどうぞ!ちょっぴり使用感ありますが、鼻水とかヨダレは拭いてませんので!どうぞ!』
「ううう、森山くん、やっぱり、やざじいぃぃ」
咲田先輩は泣いてる漆原さんの肩を抱いて、ヨシヨシと宥めながら、慌てる僕を見て、クスっと笑っていた。
『副会長!笑っている場合ではありませんよ!!! 現世のリアル聖女である漆原さんが泣いているんですよ! きっとこれは天変地異の前触れに違いありません! 今すぐ気象庁に連絡しなくては!』
すると咲田先輩はガマン出来ずに噴き出した。
「何で気象庁なのよ!ぷくくく」
漆原さんは、もう泣き止んでて、唖然とした表情で慌てふためく僕を見ていた。
僕はベンチに座る漆原さんの前に膝を着いて語りかけた。
『う、漆原さん、もう落ち着きましたか??? 具合悪くなってませんか? 病院に行きましょうか? ママさん呼びましょうか? それとも救急車のが早いか!?』
「もう、森山くんは大げさなんだから」
『だ、だって、偽装ぼっちの僕には、女性が泣いてる時の対処なんてハードルが高すぎなんですよ!』
「・・・・じゃあ、ハグして下さい」チラッ
『うう、後でいつもの公園に寄って』
「ダメです! 今、ココで!」
『エェー・・・』
咲田先輩、驚いた表情で漆原さんの顔、凝視してる。
はぁ
僕のせいで怒ったり泣かせたりしちゃったからな・・・
『分かりました』
そう言って、漆原さんの隣に座り直し体ごと向けて両手で抱きしめた。
「ふぅ♡ 森山くんの匂いだ♡」
咲田先輩は更に驚いたのか、口をあんぐりと開けたまま固まった。
ハグの体勢のまま釈明した。
『咲田先輩、ハグくらいは日常茶飯事なのであまり驚く必要はありません。ただし家族以外の人前では初めてかもしれませんが。 それと、なるべくこのことはご内密にお願いします』
「え、ええそうね。 こんなこと(ヒメカちゃんが男子生徒にハグねだって慰めてもらってる)が知れたら、学校中が大騒ぎになるわよ」
『っていうか、ココ学校の中じゃないですか! 今リアルタイムで自殺行為でしたよ!』
そう叫んで漆原さんから体を離した。
漆原さんは「えへへ♡」とテレモードになってて、さっきまで怒ってたり泣いていたのがウソの様にご機嫌だった。
「そっか、二人は恋人だったんだね。 そりゃヒメカちゃんも怒るよね、彼氏を馬鹿にされたら」
「こ、恋人!」デヘヘ♡
『え?何言ってるんですか。僕が漆原さんの恋人な訳ないじゃないですか。漆原さんは聖女様だから僕みたいなモブでも差別せずに友達になってくれてるんですよ?』
「え?森山くん、それ本気で言ってるの?」
『当たり前じゃないですか』
「・・・・ちょっとヒメカちゃん、こっちおいで」
咲田先輩はそういうと、漆原さんを隅の方へ連れて行き、何やら小声で話し始めた。
「あーなるほどねぇ、そうだよね、そういうことよね、うんうん」
どうやら咲田先輩も納得したようだ。
二人がベンチに戻ってくると、咲田先輩が
「二人とも頑張れ! 私は二人を応援してるからね!」
『はぁ、早く仕事覚えて、少しでも生徒会のお役に立てるように粉骨砕身、頑張ります』
「いや、そっちじゃなくて・・・まぁいいか」
初日のこの日は18時過ぎまで業務を続け、波乱の生徒会デビューはこうして終わった。
帰り道、辺りは既に暗くなってて、漆原さんに再びねだられ手を繋ぎ、漆原さんの家まで送ってから帰った。
いつも学校では凛としている漆原さんが、今日は学校でも感情の起伏が大きくて、いつも僕と二人で居る時みたいに急に甘えだしたりして、ついつい僕も学校の中だというのに二人だけの時と同じように振舞ってしまっていた。
漆原さんは僕を偽装ぼっちと呼んでいたけど、どうやら本当に僕のぼっち生活は終わる時が来ているようだ。
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