#35 波乱の生徒会


 漆原さんが、彼と僕を交互に首を何度も行ったり来たりして見ている。



「可愛い後輩の顔、忘れちゃったんすか? 工藤ですよ、工藤コウジです」


『ああ・・・えっと、はい、工藤くんですね。お久しぶりです。ご無沙汰してます。元気そうでなによりです』


「あの、森山くんと工藤くんはお知り合いなんですか?」


「はい。同じ中学で同じ陸上部でした。 先輩は2年の途中で辞めちゃいましたけど」


 確かに2年の途中で辞めた陸上部の1つ下の後輩だったけど、先輩後輩としては半年程度の付き合いで、可愛い後輩と呼べるほど親密な付き合いはなかったはずだ。



「なるほど・・・」


 漆原さんは僕の耳元に顔を寄せて小声で

「大丈夫ですか? もし辛かったら助っ人の話はキャンセルして頂いても大丈夫ですよ」


『いえ、大丈夫です。 ちょっとビックリしただけですから』



「それにしても驚きました! 漆原先輩がスカウトしたのが森山先輩だったとは」


「ええ、助っ人の話が出た時に、森山くん以上の適任は居ないと思ったの。 ところで工藤くんがさっき言ってた厨二病とは?」


「えっと、森山先輩って以前は人気者でリーダーシップあって、陸上部でも次期部長とか言われたんすけど、ある日突然陸上部辞めちゃって、それでみんなで戻ってもらおうと説得しに行ったんすよ。そしたら人が変わったみたいに大人しくなっちゃってて、ずっと一人で居るもんだから、なんかそれが厨二病発症したからじゃないかって噂になったんすよね」


 そんな噂があったのか

 知らなかった


 認めたくないものだな、若さ故の過ちとは


 工藤くんの話を聞いた漆原さんが、無言で僕を見つめる。

 その表情は、怒ってるのか悲しんでるのか僕には解らなかったけど、楽しい表情ではないことだけは解った。



『・・・・』


「えーっと、工藤くん」


「はい、なんすか?」


「森山くんのことを2度と厨二病と言わないで下さい。 もしまた森山くんのことを侮辱するような発言をするなら、私が許しません」


「え?」


『いや、あの、漆原さん、どうか穏便に。日陰ぼっちにはコレくらい日常茶飯事なので、そんなに事を荒立てなくても・・・』


「いいえ、私は絶対に見過ごしません。 私の我儘でココに来てもらったのに、森山くんが不愉快な思いすることは絶対にあってはダメです」


『はい・・・すみません、気を遣って頂いて・・・・』


 カスミに絡まれた時と同じくらい、漆原さん怒ってる。



「えっと、すまない。折角来てもらったのに見苦しいところを見せてしまって。 生徒会長の中山です。 話は聞いてると思うけど、今、生徒会は非常に忙しくて、猫の手も借りたい様な状況なんだよ。 それでみんな気が立ってる部分もあったかもしれない。 代表して僕が謝罪する。申し訳なかった。 だが、是非とも森山くんの手を貸して欲しい。 生徒会には君の様な人材が必要なんだ」


『は、はい。お役に立てるか解かりませんが、頑張ります』


「森山先輩、いきなり失礼なこと言ってすみませんでした・・・」


『あの、大丈夫です。 僕は気にしてませんから。 それより、生徒会のことは何も分からないから、色々教えて下さい』


「はい!よろしくお願いします!」



 その後、一人づつ自己紹介して貰い、直ぐに業務が始まった。


 僕は会計役の漆原さんに付いて色々教わりながら補佐の様な業務にあたった。


 漆原さんは、先ほど工藤くんに怒った後、業務が始まると普段通りに振舞い、僕との会話もいつもと同じようだけど、目が全然笑っていなくて、いつまた怒り出すのかと気が気でなかった。


 そんな調子で1時間ほど作業を続けていると、副会長の咲田先輩が漆原さんと僕に「休憩にいこう」と声を掛けて来た。


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