#34 生徒会デビュー


 漆原さんの要請を受け、生徒会のお手伝いをすることになった。



 相談を受けた当初は(生徒会の手伝いだなんて、また恐ろしいことを)と思ったけど、やはり僕も年頃の男の子。 気になる異性からのお願いには弱いのだ。


 漆原さんは僕の事を買ってくれているらしく「今の生徒会には森山くんが必要なんです」と言ってくれた。

 また、「私が森山くんと一緒に生徒会やりたいんです!」とも言ってくれた。


 こんなに信頼されていたのか、と驚くのと同時に嬉しかった。

 高校生男子が気になる同級生からこんなこと言われたら、そりゃ嬉しいのは当然だよね。


 ここまで言われたら、いくら偽装ぼっち(漆原談)の僕でも断るという選択肢は消え失せた。


 それに、純粋に漆原さんと一緒に過す時間が増えるのも嬉しいからね。



 ただ、やっぱり不安もある。

 周囲の目だ。


「え?なんでモブ山ごときが生徒会?」

「なんか、漆原さんがスカウトしたらしいよ」

「それこそ何で?漆原さんがモブ山ごときを何で?」

「モブ山のくせに漆原さんに取り入って生意気だ」

「きっと漆原さんは騙されてるんだ」

「モブ山のヤツ、どんな汚い手を使って漆原さんを騙したんだ」


 きっとクラスではこんな会話が繰り広げられるに違いない。

 その結果が魔女裁判ですわ。


 あぁ目に浮かぶ。

 僕を断罪する魔女裁判の光景が。


 やはり早まったか

 しかしもう顧問の先生との面談をしてしまったし、今更後には引けないのか。





「森山くん、どうしたの? 顔色悪いよ?」


 おっと、考え事に没頭しすぎて、漆原さんの手作り弁当を食べる手が止まっていた。


『いえ、大丈夫です。 それにしても、今日のお弁当も素晴らしいです。まさかお昼弁当にお赤飯とは予想外でした』


「うふふ。なんと言っても今日は森山くんの生徒会デビューですからね! 景気づけですよ!」


『う、胃が急に・・・』


「え!?大丈夫!?」


『豆腐メンタルの自分が恨めしい・・・』


「生徒会、やっぱり止めておきます?」


 そう言う漆原さんは、本当に僕のことを心配してくれているような表情だ。


 情けない

 3年前からずっと逃げ続けて来たけど、漆原さんの前でだけは逃げたくないな。


 そうだ、生徒会をネガティブにイメージするから怖いんだ。

 ポジテュブなことを考えよう。



『漆原さん、無事に生徒会に行けたら、帰りは一緒に帰りましょう』


 あ、なんか死亡フラグみたいなこと言っちゃった。


「うふふ、もちろんですよ! その為にスカウトって、コレハナイショダッタヨ」


『え?なんです? なんて言いました?』


「内緒なんです! 教えません!」


『そういう風に言われると、余計に気になるんですが?』


「ん~もう! 内緒ったら内緒なんです! それよりも「あーん」してください!」


『あーん』


「えい!」


 いつもの非常階段で横に座る漆原さんが、至近距離から僕の口にから揚げを放り込む。


 モグモグモグ


『このから揚げも素晴らしいです。 上手くカレー風味が効いてますね。 揚げてから風味を加えたんですか?』


「そうなの!揚げる前だとカレーの風味が飛んじゃって焦げっぽい味になっちゃうんですよね。 流石森山くん、一口で判っちゃうんですね!」



 漆原さんとお喋りしてたら、いつの間にか胃痛も収まっていた。

 流石漆原さん、現世のリアル聖女だけあって癒し効果が半端ない。

 似非ぼっちの僕とは、格が違うね。





 ◇◆◇





 その日の放課後、漆原さんと生徒会室に向かう。


 漆原さんと一緒に校内を歩くのは流石に不味いと現地集合を提案したけど、即却下され、今こうして二人で廊下を歩いている。


 周りの視線がとても気になるので、「不始末を起こして生徒指導室に連行される生徒」になり切って、僕は漆原さんとは親密な関係ではありませんよアピールをしつつ、生徒会室へ向かう。




 なんとか無事に生徒会室に到着。


 ヒーヒーフ~

 ヒーヒーフ~


 緊張を抑えようと呼吸を整える。

 ラマーズ法は出産時の呼吸法だが、緊張を抑えるのにも有効だ(自論)


 漆原さんがノックし扉を開けて「お疲れ様です」と言って入る。

 それに続いて「失礼します」と言って僕も入る。



 教室の半分程度の広さの室内に、長テーブルがいくつも並びそれぞれにパイプ椅子があり、テーブルの上には大量のファイルや書類やノートPCが置かれていた。


 漆原さんが僕を紹介してくれる。

「同じクラスの森山くんです。 今日からお手伝いしてくれることになりました」


『ど、どうも、森山です。 う、漆原さんとはただのクラスメイトで、と、と特別親しいわけではございませぬ。ぼ、ぼぼくは無実です』


 自分の無実を噛みながら訴えていると、横に立つ漆原さんが僕の脇腹に肘を入れてきた。


『ぐお!? う、漆原さん・・・今のは結構痛かったですぞ!?』


「森山くんはお話するのが少し苦手ですが、能力的には非常に優秀な方ですのでみなさんよろしくお願いします」


「っていうか、森山先輩じゃないっすか! 厨ニ病はもうイイんすか?」



 んんん!?




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