#20 乙女の戦い
森山くんのお家から帰って考えるのは、森山くんのことばかり。
森山くんが人を避けるようになった過去。
きっとトラウマになっているんだろう。
好きだった幼馴染に良かれと思ってしてきたことが、迷惑だと拒絶されたのだから。 行為だけでなく恋心も直接相手に否定されたようなものだ。
きっと真面目で思い込みの強い森山くんなら、これまでの価値観とか人生観が崩れ去る程のショックだったに違いない。
私だって、例えば今、森山くんに「空手やってる暴力女なんか野蛮で嫌いだ」なんて言われたら、登校拒否の引きこもりになってしまうだろう。
やるせない思いを抱いた私は、自分がやるべき事を考えた。
1つは、森山くんにとって無二の存在になること。
何があっても私は森山くんの人間性を否定せず裏切ったりしない。
それを森山くんにも信じて貰え信頼しあえる存在。
その為にも、森山くんとの時間を今よりもっと増やして濃密にして、もっともっと仲良くなるのが必要。
そしてもう1つ
森山くんの敵となる存在から森山くんを守る。
特に要注意は、森山くんの幼馴染だ。
今日だって、家の前でお喋りしている森山くんを気になる様子で眺めていたし、彼女には警戒が必要だ。
その辺りは、ハルコちゃんと協力していこう。
早速この2つのことをハルコちゃんにチャットアプリで相談。
直ぐに既読が点いて「お隣の事は任せて下さい。兄との時間増やすの、思う存分やっちゃってください。よろしくお願いします」とGOサインが出た。
◇◆◇
月曜日、いつもの日常が始まる。
森山くんと視線だけで挨拶を交わし、メールで雑談。
今、二人の間で盛り上がってる話題は、スィーツの話。
高級どら焼きが衝撃的だった話から始まり、どんなデザートが好きか、ケーキは何が好きか。 森山くんはチョコレートケーキが好きで、私はモンブラン。
そこで森山くんの家のご近所にモンブランの美味しいお店があるとかで、今度私のお家に来るときに買ってきてくれるそうだ。
そんな雑談の流れから、ピコーン!と閃いた。
森山くんはお昼ご飯を非常階段で一人で食べていると言う。
これに同席するしかないでしょ!と閃いた。
なんなら手作り弁当を用意してもいい。
普段のお弁当はママに作って貰ってるけど、森山くんに食べて貰うなら腕に寄りを掛けて私が作る!
ということで、早速森山くんに提案してみたけど、ぐだぐだと難しい言葉を並べて拒否の姿勢。
こうなってくると私も負けず嫌いの血が滾ってしまい、更に森山くんから「ポンコツ」と言われてプチーンと、ちょっとばかり殺気が漏れ出てしまった。
私としたことが、またしても森山くんに対して失態だ・・・と思ったけど、上手く話しを纏めることが出来たからヨシとした。
そうか、森山くんちょっと捻くれてて面倒な時あるけど、これからはこの手が使えるのね・・・メモメモ
その日、家に帰ってからママと相談して、お弁当のおかずのメニューを考える。
念のため、森山くんにもメールで嫌いな物が無いか確認すると、何でも食べると言う。
あれも入れたいコレも入れたいと中々決まらず、結果として結構なボリュームになってしまった。
そら豆とひじきのちらし寿司
から揚げ
玉子焼き
茹でたブロッコリーやニンジン
タコさんウインナー
アスパラベーコン
栄養バランスを重視した。
そして、朝全部作るとなると大変なので、夜のうちから下ごしらえだけでも始める。
鶏肉は漬けこんで下味を付けて、朝揚げる。
玉子焼きは出汁巻にして、これも朝でいいよね。
湯で野菜は皮剥いてカットだけしておく。
タコさんも同じくカットだけ。
アスパラベーコンは、アスパラの下茹でと皮むき。
最後にちらし寿司の具材を煮付け、お米を洗米して炊飯器にセットして、今日の所は終了。
翌朝はいつもより1時間早く起きて、順番に揚げたり炒めたり茹でたりして、私とお揃いの弁当箱に詰めて愛情弁当完成!
そしてお昼時間、一緒に教室を出るのは森山くんが嫌がるので、非常階段で待ち合わせ。
非常階段、初めて来たけど狭いんだね。
階段に腰掛ける森山くんに続いて、私も隣に座る。
狭いと言って逃げようとする森山くんを引き留め、視線で大人しくさせる。
ココまでは武道家の漆原ヒメカ。
そしてココからは、森山くんに想いを寄せる乙女の漆原ヒメカ!
乙女の戦いが今始まるの!
乙女モードの私は、お弁当を渡しながら”私の手作り”をアピール。
弁当を受け取った森山くんは、早速フタを開けてちょっと驚いた表情に。
こ、これはどういう反応なの???
美味しそうに見えてるの???
それとも引いてるの???
試合前より緊張する・・・
不安な私を他所に、出汁巻玉子を一口でパクリ。
モグモグさせる森山くんの唇をじっと見つめてしまう。
再び驚いたような表情をしたかと思うと、今度はから揚げを1つパクリ。
モグモグさせて飲み込んだ森山くんが私を呼ぶ
『漆原さん』
たまらず感想を聞き返してしまう。
「ど、どどどうかな?かな? おく、おくちゅに、ああああうかな?かな?」
ああもう!またかんじゃった!
『素晴らしいです。 玉子焼きもから揚げも絶妙の味付けです。 ひと手間も二手間も掛けてあるのが分かります。 これは本当に素晴らしいです。 漆原さんの料理スキルと愛情が成せる味です。素晴らしい』
そんな私にお構いなしで、森山くんは褒めてくれた!
ていうか、褒めすぎだよ!
もうソコからは恥ずかしくって顔が熱くなるの解るし、でも私のお弁当を美味しそうに食べてくれる森山くんの横顔が素敵で、胸いっぱい。
ドキドキキュンキュンしてると、あっという間に食べ終えた森山くん
『ごちそうさまでした。 漆原さんのこと正直舐めてました。 こんなに美味しいお弁当が頂けるなんて思ってませんでした』
「えへへへ、そ、そうかな?」
て、照れるなぁ
『はい、漆原さんはきっと良いお嫁さんになりますね』
「お嫁さん!!!」
ええええええええ!!!???
お弁当1つで結婚だなんて、早すぎるよ!森山くん!
私は・・・別に・・・嫌じゃ・・・ないけど・・・
『シィィィィ! 声が大きいです! ここに人居るのバレたらどうするんですか!』
「だ、だって!森山くんが急に私の事お嫁さんにしたいって言いだすから!」
『言ってねーよ! 漆原さん耳腐ってんのか! 良いお嫁さんになれるねって、客観的な感想述べただけだよ!』
あ、私の早とちりだった
今日の乙女の戦い、わたし勝ったはずなのに、なんだか最後だけ敗北感が・・・
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