#21 ドズルは恋のキューピット?



 ドズルを連れて漆原さんと会うのはもう既に何度目だろう。


 実はドズル、漆原さんに対して敵認定しているようで、今でもよく漆原さんに向かって威嚇している。


 最初に僕を回し蹴りでKOさせてしまったのが良く無かったんだろう。


 この間なんて、漆原さんがドズルの頭を撫でようと手を伸ばしたら、じっとして油断させてからの噛みつきカウンターをしようとしてた。 空手の達人の漆原さんだから簡単に避けれたけど、あれ普通の人だったらガブってやられてたね。



 ということで、前にドズル仲が良いのを羨ましいと言っていたのもあったので、漆原さんとドズルの仲直り大作戦を開始した。



 まず始めたのは、例の公園から漆原邸への道、リードを漆原さんが持つこと。


 初日はドズルは抵抗を見せ動こうとしなかったけど、何とか僕の声掛けで渋々歩き出し、途中何度もダダコネては立ち止まっていた。 二日目以降も最初だけは僕の声掛けが無いとドズルは動こうとしなかった。


 次に、漆原さんがドズルに触ろうとしても怒ったり逃げたりしないように慣れさせるのにチャレンジ。

 しかし、これが中々ドズルも頑固で、漆原さんに全然触らせようとはしなかった。



 そこで二人で作戦会議。


『まず一番大事なのは、漆原さんは敵じゃないよって判らせることだと思います』


「なるほど。それでどうすれば?」


『遊んであげたり、エサあげたり?』


「どれも既に試して、ダメでしたよ・・・」


『う~ん』


「あの・・・思ったんですが」


『はい』


「森山くんにケガさせたから敵だと思われてるなら、森山くんと仲良しアピールすれば、ドズルくんも警戒しなくなるのでは無いでしょーか?」


『なるほど。確かに理にかなってますね。で、具体的に仲良しアピールとはどんなことを?』


「その・・・・手を繋いだり・・・ハグしたり・・・膝枕したり・・・き、ききききキしゅしたり」


『そんなに顔真っ赤にして、恥ずかしいのなら言わなければいいのに』


「ん~~もう!いじわる!森山くんのいじわる!」


 そう怒りながら、僕をポカポカ叩いて来た。

 叩いて来たといっても、空手の達人が本気出したらこんなもんじゃないのは分かっているので、本気で怒ってないのは分かる。


『漆原さん、ドスルの前で僕を叩くと、ドズルに嫌われますよ?』


「はぅ」


『とりあえず、キスと膝枕は置いておいて、それ以外のやってみましょうか』


「ひゃい!」



 早速この日、公園から漆原邸までの道を二人で手を繋いで歩くことになった。


 漆原さんは普段でもテンション高い時は、ボディタッチが多い人だ。

 だから手を繋ぐと言っても大したことでは無いはず。


 そう、これはドズルと漆原さんの仲直り作戦の1つであり、作業なのだ。


 そう自分に言い聞かせて、右手で漆原さんの左手を取る。


『さて、帰りましょうか』


「・・・はい・・・」


 歩きながら漆原さんの方をチラリと見る。


 俯いてて顔が真っ赤だ。耳まで赤い。


 むむむ

 ここでそんな顔されたら、僕まで意識して恥ずかしくなってしまうじゃない。


 っていうか、当事者が恥ずかしがってるの、他人から見たらどうなの?

 仲直り作戦として変なテンションで始めたけど、危険すぎやしないか?

 もしこんなところを学校関係者に見られでもしたら、ダタじゃすまないよ?



『漆原さん、やはり手を繋ぐのは超デンジャラス過ぎます。止めましょう』


 そう言って、手を離そうとしたら、漆原さんは握る手に力を込めて離してくれない。


『痛い痛い!手が痛い!握りすぎ!手が千切れます!』


 なんて握力なんだ!? 殺傷能力あるぞ!漆原さんの握力


「ううう・・・武士に二言は・・・無いと言うではありませんか・・・」


 何故か今日の漆原さんはテレてるクセに強情だ。


 因みに、ドズルは前ばかり見ていて、僕と漆原さんが手を繋いでいることに興味が無さそうだ。





 そして漆原さんの家に到着。


『では帰りますね。 また明日、ごきげんよう』


 手を離してさっさと帰ろうとすると、服を掴まれ引っ張られる。


『のぁ!?首が閉まる! なんですか!? まだ何か用事でも?』


「・・・ハグが・・・まだハグが残ってます。ハグもしないと・・・」


『え? まだするんです?』


「ぶ、ぶぶぶぶしににごんは!」


『漆原さんはいつから武士に? アナタ空手家でしょう?』


 僕のツッコミを聞いても漆原さんは服を離そうとしてくれない。


『あーもー、わかりましたよ! コレでいいですか!カモン!ウエルカム!』


 そう言って両手を広げる。


 漆原さんは掴んでいた服を離して、僕と同じように両手を広げる。



 お互い向き合ってから、がっちり抱き合う。

 物凄く作業的なハグだ。


 チラリとドズルを見る。


 こっち見てない。


『漆原さん、折角ですが、ドズルが見てません』


「ふぁ♡ 森山くんの匂いだぁ♡」


 聞いちゃいないや


 目的が変わってしまっている気がしないでも無いけど、こういうのは積み重ねだろう。 今日はダメでも、また次があるさ。



 いつまで経ってもハグを止めようとしない漆原さんを半ば強引に引きはがし

『それではまた明日。おやすみなさい』とさっさと帰る。



 家に帰りドズルに水をあげようとすると、ドズルが僕に近づこうとしない。


『あ!僕の服に漆原さんの匂いがガッツリ付着してるからか!?』


 恐るべし、漆原スメル。





 この日以降、公園からの帰り道は手を繋ぎ、漆原さんの家の前でハグしてから帰るのが習慣となった。


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