#24 イチローの胃袋を掴んだヒメカ




 漆原親子の不毛な争いがしばらく続いたけど、流石に時計が正午を回ったところで、まだ何も料理が始まっていないことに漆原さんが気が付いてくれて、慌てて料理を始めることになった。



 まずはソフト麺にかけるソースから。


 2種類用意するということで、1つ目はミートソース。2つ目は中華風の餡かけソース。


 漆原さんがみじん切りにした玉ねぎをフライバンで炒めるのが最初に僕に与えられた役割。


 木べらで満遍なく火が通る様にこねくり、横から漆原さんが玉ねぎの焼き色を確認しつつ調味料や挽肉、赤ワインをフライパンへ投入していく。

 程よく火が通ったらホールトマトとウスターソースを投入して、しばらく弱火で煮込んでミートソースの完成。


 次に、豚バラ、タケノコ、玉ねぎ、ピーマンを炒める。

 ミートソースと同じく横から漆原さんが調味料、料理酒、中華出汁で作ったスープを投入。

 軽く煮込んでから漆原さんが味の確認をして、水溶き片栗粉を入れてトロミを付けて完成。


 この頃になると漆原さんも本来の調子が戻った様で、テキパキ僕に指示出しながら笑顔で調理をしていた。


 こうして二人で並んで料理していると、お喋りしてる時とは違う楽しさがある。

 頼りにされてる誇らしさとか、味見してるときの考える表情を間近に見れたりとか、なんか学園のアイドルである漆原さんと対等な相棒にでもなれたかのような、そんな気持ちにさせてくれた。

 そしてそんな僕らをママさんがスマホで楽しそうに撮影していた。





 ソフト麺のソース作りが終わると、僕は調理器具を洗う作業に移り、漆原さんは厚切りベーコンの調理を開始。


 厚み50ミリを超えるブロックを冷蔵庫から取り出し、3種類のメニューを作ることに。

 1つ目は1口サイズにカットしてパン粉付けて揚げたベーコンカツ。

 2つ目は軽く茹でたジャガイモと一緒に炒めてチーズを絡めたジャーマンポテト。

 3つ目はフライパンで焼いただけのベーコンステーキ。


 もう唯でさえお腹空いてるから、ベーコンを焼く臭いと音で口の中のヨダレが止まらない。


 そんな僕の様子に気が付いたのか、漆原さんがベーコンカツを1つ摘まんで僕に向かって「あーん♪」と言う。


 空腹値限界突破している僕は躊躇することなく『あーん』と口を開け、漆原さんにベーコンカツを放り込んでもらう。



 モグモグモグ


『漆原さん、素晴らしいです。ベーコンのカツ初めて食べましたけど、衣のサクサクとベーコンのジューシーさと歯ごたえが絶妙にマッチしてます。漆原さんはやはり料理の天才なんですね』


「ほ、ほんと!? えへへへ、じゃあ今度のお弁当にも入れるね♪」


『いえ、弁当はもう・・・』


「早速月曜日ね!ふふふ」


 聞いちゃいないや

 でも漆原さんのお弁当は、本当に美味しかったからね。

 リスクはあるけど、それ込みでも食べる価値があるのは間違いない。うん。


「森山くん、すでにヒメカちゃんに胃袋掴まれちゃってるのね。うふふ」




 出来上がった料理は食卓に並べられ、3人でそのまま食事を始める。

 僕と漆原さんが横に並んで座り、向かいにママさんが座る。


 漆原さんは僕が1口食べる度に体ごとすり寄せてきて

「どうかな? 美味しく出来たかな?」とか「熱いから火傷しないようにね?」とか僕に話しかけ、学校でお弁当を二人で食べた時と違って、テンション高めだった。



 ママさんはそんな僕たちを見てニヤニヤしながら「二人とも、ホントに仲良いのねぇ。料理してる時の二人、新婚さんみたいだったわよ?」と恐ろしいことを言い出した。


『し、新婚さんですと!? もしこんなことが学校関係者に知られでもしたら、ジハードが!? ママさん、さっき写した写真すぐに消して下さい! すぐに証拠隠滅しなくては!』


「もう!森山くん、また大げさなこと言って! 写真は私があとで楽しむの!」



 今日だけでもこんなやり取りを何度も繰り返しているせいか、朝来た時に比べ自分でも随分とリラックスしているのが分かる。


 それと料理はどれも凄く美味しくて、特に中華風餡かけのソフト麺とベーコンカツは気に入ってしまい「流石漆原さんです。給食センターは今すぐ漆原さんを雇用するべきです」とホメ千切ってホメ千切ってホメ殺ししておいた。



 食後にお茶飲みながら、ママさんが撮影した写真を二人で並んで一緒に見てたら、料理中にベーコンカツをあーんしてる二人の写真があって、凄くテレくさいけど、でも漆原さんが凄く幸せそうな顔しててとてもいい写真だったから、ママさんに頼んで僕のスマホにも送信してもらった。




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